コーヒータイム -Learning Optimism-

本を読むということは、これまで自分のなかになかったものを取りこみ、育ててゆくこと。多読乱読、英語書や中国語書もときどき。

【おすすめ】 『売上目標は立てるな! 20人までの組織をまとめるリアルマネジメント』(岩渕龍正著)を読んだ

 

売上目標は立てるな! 20人までの組織をまとめるリアルマネジメント

売上目標は立てるな! 20人までの組織をまとめるリアルマネジメント

 

 

タイトルがキャッチーだから、「トンデモ本?」と一瞬身構えてしまったが、読み始めると首がもげそうになるほどうなずかされる内容だった。タイトルだけで内容に偏見を持つと、こうした良書を見逃してしまうと反省。

末尾に、この本を世に出すために尽力したアップルシードエージェンシーの鬼塚氏への謝辞が述べられている。鬼塚氏は以前読んだ『ザ・エージェント  ベストセラー作家を探しつづける男』の著者だ。彼が著書で述べていたのは、作家にふさわしいテーマを選ぶにあたって「彼のキャリアを社会に還元できるテーマはなにか」を考える、ということだった。本書もまさにこの考えに沿ってテーマが選ばれ、説得力ある本に仕上がっている。

 

著者は中小企業、それも主として従業員数一〇人前後の会社のコンサルティングを手がけるコンサルタントだ。数百社の中小企業コンサルティングを経験する中で、著者は「やる気を出すことを個人に任せていたら、会社は崩壊する」ことに気づいた。なぜか。身もふたもない言い方をすると、自らやる気を出してうまくいく仕事方法を編み出して実現させることができるような人材は、そもそも中小企業には滅多にいないんである。

著者によると、会社を元気にするには、

「今までと違うことをやる」

「今まで以上のことをやる」

この二つしか方法はない。しかし、やる気のない従業員は今まで以上の負担、負荷、仕事量を嫌がるもの。どんなにすばらしい取り組みでも 、現場のスタッフが実行してくれなければ絵に描いた餅に過ぎない。

やる気のない従業員とはどんなものか、有川浩の小説『フリーター、家を買う』を読んでみると分かりやすい。主人公武誠治を含め、やる気のない若者がやりがちなことが生々しく描写されている。 

フリーター、家を買う。 (幻冬舎文庫)

フリーター、家を買う。 (幻冬舎文庫)

 

 

では、どうすれば従業員は動くのか。著者は明快に言い切る。

あなたとスタッフとの間に信頼関係が構築されていなければ、どんなにすばらしい取り組みも実行されないし、定着しません。

たとえ、あなたが正しいことを言ったとしても、嫌いな人の言うことには人間、耳を傾けないものなのです。

まずは従業員と信頼関係を築いていく。次に、成果評価ではなく「プロセス評価」を人事評価に取り入れていく。そもそも成果を出せない人の問題は、何をしていいのかが分からないことなのであって、こうすれば今よりうまくいくというプロセスを踏ませることで、次第にある一定の成果は出せるようになる。(この辺りのマニュアルや手順書作成は日本企業の得意技でもあるはずだ)

結果を出すためのプロセスがしっかりできれば、突出した成果ではなくても、基本的には誰でも成果が出るのが当たり前になります。

社長の仕事は結果を出すための仕組みをしっかり作ること、「何のためにこの会社で仕事をするのか?」という仕事観を統一して会社のやる気を引き出していくこと。前者はプロセスを構築し、プロセス重視の人事評価制度をつくることで達成する。後者は従業員との面談などのコミュニケーションを増やすことで次第に社内に浸透させる、といった努力や工夫が必要になる。これが著者の主張だ。

 

私がこの本を読みながら首がもげそうになるほどうなずいたのは、この本に書いてあるのが零細企業をはじめ、大企業や中規模企業の中にも必ずある20人程度の部署、さらには同じくらいの人数であれば非営利団体などにもあてはまる話ばかりだからだ。

従業員は社長を、部下は上司を、メンバーはリーダーを実によく見ている。理由は簡単で、会社や組織、ひいては自分自身の今後の見通しが明るいかどうかを推測するのである。

下の人間と上の人間のあいだには、著しい情報の不均等があるのが普通だ。重要な経営情報がヒラ社員にまわってくることはまずない。では零細企業の従業員はどうやって経営状態を判断するか。社長を見るのだ。社長が前向きで仕事にきちんと取り組んでいれば安心するし、暗い顔をしていたり怒りっぽくなっていたら、良くないことがあったのかと動揺する。そしてその勘は結構当たる。「なんか今日は沸点低いな」「目が怖いな」といった小さな気づきがあってからしばらくして、トラブルがあったと耳に入り「やっぱり。無理もない」と納得するのだ。ゴルフにうつつを抜かして会社業務に労力を割かないような社長は最悪だ。会社を成長させる気がないとしか思えないからだ。

同時に従業員は、社長から「きみがいて助かる」「きみが頑張っているのを知っている」と言われたい。社長が自分の大変さをわかってくれることを望んでいる(客観的に成果が出ているかどうかは関係ない)。社長の仕事観を従業員に伝えたり、面談を通して従業員の話を聞くのは、そうした従業員の望みを果たし、信頼関係を築く第一歩になる。

「惚れこんで」もらえる社長の下から従業員はそうそう離れない。やむにやまれず離れても後ろ髪引かれる思いで、いつか戻ってきたいと願う。この本に書いてあるのは、惚れこんでついていきたいと思うような、そんな中小企業の社長のあるべき姿だ。

自分が惚れこんだリーダーのために、できることをしたい。

そう思うようになったら本当に強いって、痛感する。

 

最後に私が肝に銘じたいと思った言葉を引用する。

リーダーは絶対に怒ってはいけません。怒ってしまうということは、自分の感情のほうが仕事観よりも優先されているということです。そして、それをリーダー自らが認めてしまうことで、スタッフ全員が感情を論理よりも優先することを許可していることになってしまうのです。