コーヒータイム -Learning Optimism-

本を読むということは、これまで自分のなかになかったものを取りこみ、育ててゆくこと。多読乱読、英語書や中国語書もときどき。

[昔読んだ本たち]読書記録さまざま(二)

昔の記録類を片付けていたら出てきた読書記録を見直していく。中には読んだことすら忘れているものもあって、我ながら呆れる。

 

シーナ・アイエンガー『選択の科学』

選択の科学

選択の科学

 

アメリカ人がこよなく愛する「選択」についての本。

さまざまな心理的・科学的実験から、〈選択すること〉を掘り下げていく。私達が〈選択〉と呼ぶものは、自分自身や自分の置かれた環境を、自分の力で変える能力のことで、これを持っているという認識が私達を元気づけ、選べるために力をつける動機となる。けれど人は心理的作用で選択を強制されるーー他人と同じものを頼みたくない、自分のイメージにふさわしいのはこれだ、などなど。時には愛する者の延命を続けるかどうかなどという残酷な選択を迫られることがあり、その代償として苦しむこともある。それでもなお私達は〈選ぶ〉ことができるのだと、本書は力強く説く。

 

西尾和美『機能不全家族

機能不全家族―「親」になりきれない親たち (講談社プラスアルファ文庫)

機能不全家族―「親」になりきれない親たち (講談社プラスアルファ文庫)

 

なんとなく心理学関係の本が続く。

この本は親が健全に機能するためのコミュニケーション方法を記した指南書だ。もう一度自分の人生を追体験するワークを読書記録にメモしている。(1) リラックス→(2) 子供の頃の体験をモノクロの映画スクリーンに映すイメージで見て、新しい発見を心にとどめる→(3)映画スクリーンに入りこみ、いま自分が学んだことを子供の自分に伝え、やさしくなぐさめる→(4)子供の自分に入りこみ、親に言いたかったこと、したかったことをするイメージをつくる、というものだ。

 

長山靖生『若者はなぜ「決めつける」のか』

若者論の一冊。ひねくれた見方をすれば「若者」というくくりがすでに決めつけにも思えるが、それはおいておく。

自己決定論には、実際には実行能力や権限がないにもかかわらず(ここ重要)、選ぶことを強い、それを自分のせいにするという側面がある。ゆえに若者は選んだことに対してどこか他人事のように感じて、それは同時にダメなところを認めない態度にもつながる、という内容。

 

犬山紙子『高学歴男はなぜモテないのか』

高学歴男はなぜモテないのか (扶桑社新書)

高学歴男はなぜモテないのか (扶桑社新書)

 

話つまらないから!  で終了しそうなタイトルだが、高学歴男の実際のところをとても丁寧に読み解いている本。

自己防衛心が強い、自己顕示欲が強い、頭の中でストーリーをつくり現実とのギャップに悩んでしまう、理屈で作戦をたてるあまり一番大事な「相手の感情」を無視してしまう…そんな自分中心の考え方をすると女性に見抜かれてモテない、と一刀両断にする。女性にびびらず実体験を積める打たれ強さが一番必要だと著者はいうが、これが高学歴男には一番難しかったりするから世の中上手くいかないものだ。

 

白川桃子『格付けしあう女たち

(010)格付けしあう女たち (ポプラ新書)
 

マウンティングという言葉が定着して久しい。港区女子、キラキラ女子、白金マダムなどが代表的か。

女同士が格付けしあうのは、否定されたくないという守りの気持ちからだと著者は言う。自分の実力ではなく夫や子供の出来で評価されるから、逆に不安になり、自信を持てず(自己承認につながりにくく)、自分の選んだことは本当によかったのかと心が揺れるのだ。だからこそ小さな違いで人を格付けし、自分の位置を確認し、これで良いのだと自己防衛せずにはいられない。著者はサバイバル方法として(1)複数の足場を持つ、(2)問題解決能力を持つ、(3)自分を肯定すること、が必要だと説く。

 

マリー・フランス・イルゴイエンヌ『モラル・ハラスメント』

モラル・ハラスメント―人を傷つけずにはいられない

モラル・ハラスメント―人を傷つけずにはいられない

 

読み進めるのがきつい本。モラハラ人間は特別な性格の持ち主ではなく、誰もがそうなりえるという点で。

モラル・ハラスメントの加害者は自らの内心にある葛藤を外部に向けて、自分よりすぐれていると思われる他人を破壊し、自分に脅威を与えないレベルまで落とさないと生きていけない人間だ。初めから悪いのはすべて相手だと思っている。初めにはまず被害者を同情や罪悪感などて巧みに支配下におくが、そこにあるのは相手の持つものを羨ましく思い、手に入れるために支配しようという心理だ。だが被害者が抗おうとすると、加害者の羨望は憎しみに変わり、相手をその持ちものごと破壊にかかる。対話の拒絶、言葉と表情の不一致、ほのめかし…小さな悪意ある暴力を重ねて相手を混乱させ、破壊しようとするのだ。これは両者が離れるまで止まらない。

 

古市憲寿『希望難民ご一行様 ピースボートと「承認の共同体」幻想』

希望難民ご一行様 ピースボートと「承認の共同体」幻想 (光文社新書)

希望難民ご一行様 ピースボートと「承認の共同体」幻想 (光文社新書)

 

居酒屋でよくポスターを見かけるピースボートに、筆者が乗ってみたという本。

若者は「市場とは異なる、相互承認を生み出しうる社会関係」を希求している。ここでは「承認の共同体」としてピースボートに乗る若者達をとりあげるが、彼らを見る筆者の目は冷ややかだ。彼らは世界を見たいというよりは、同じような人と集うことで共同体をつくる足がかりとしていると決めつけている。

 

根本橘夫『「いい人に見られたい」症候群 代償的自己を生きる』

「いい人に見られたい」症候群―代償的自己を生きる (文春新書)

「いい人に見られたい」症候群―代償的自己を生きる (文春新書)

 

読み進めるとぐさぐさ来る本。

「いい人を演じている」という感覚、それゆえに「偽りの自分」を生きている、「本当の自分」は別にあるという感覚がある人は「代償的自己」を生きている。すなわち自分の生身の感覚、感情、欲求、願望、衝動をさておいて、外界から期待されている自分、外界が歓迎する自分として感じ、思考し、欲求し、行動しようとする自分のことだ。もっぱら外的要請に自分を譲り渡して発達していくのが「代償的自己」だ。

これについては耳が痛い。今していることは本当に自分が望んでいることなのか、それともそう期待されているからやっているのか?  考え始めるときりがなく、哲学的思考にまで落ちこんでいきそうな気がする。

 

アルテイシア『恋愛格闘家』

恋愛格闘家

恋愛格闘家

 

著者は人気ライターで、相当凄い人生経験の持ち主だ。これまでつきあった男は58人。59番目の男と一緒になり幸せになった著者が、これまで出会った男について書き、本気で愛し愛される人を見つけるまで、戦いのリングから下りないことを選んだのだと綴る。自分より強い男にしか弱いところを見せたくない筆者が、傷ついて別れて悟ったのは、本当に強い男は往々にして強く見せるのが下手ということだった。

 

石原加受子『「つい悩んでしまう」がなくなるコツ』

「つい悩んでしまう」がなくなるコツ

「つい悩んでしまう」がなくなるコツ

 

石原加受子さんの本はどれも読みやすい。

悩むのは自分を愛し足りていないから。悩みがあると、自分のどこを愛し足りていないかがわかる。悩むのは自分のマイナス感情を出せていない、自分を抑圧しているから。けれどマイナス感情を蓄積させていればいるほど、無意識に「人を傷つける言動」をとっていく。相手のことばかり考えて他者中心になると、発する言葉も「あなたは」から始まり、その多くが相手を責めたり、非難したり、上から目線の言葉になりがち。そうならないために、自分の感情をすなおに受けとめ、自分が楽になるように行動するのがコツだ。

 

今野晴貴ブラック企業 日本を食いつぶす妖怪』

ブラック企業 日本を食いつぶす妖怪 (文春新書)

ブラック企業 日本を食いつぶす妖怪 (文春新書)

 

『モラル・ハラスメント』の実践書と言っても言いすぎではない本。解雇できない正社員を退職に追いこむために企業はまさにモラハラの手法で若者をうつに追いこみにかかる。対抗するには戦略的思考をもつこと、自分が悪いと思わないこと。会社の言うことは疑ってかかり、簡単に諦めず、労働法や専門家を活用せよ、と筆者は言う。

この本を読むと、日本の正社員はおとなしいと思う。これがアメリカなら訴訟沙汰に違いないし、そもそもさっさと転職しているだろう。

著者はこの本の続きも執筆している。続きではブラック企業が解雇できない従業員を退職に追いこむ技を、より深く掘り下げている。

 

今野晴貴ブラック企業2  「虐待性管理」の真相』