コーヒータイム -Learning Optimism-

本を読むということは、これまで自分のなかになかったものを取りこみ、育ててゆくこと。多読乱読、英語書や中国語書もときどき。

富士山1周レースができるまで ウルトラトレイル・マウントフジの舞台裏 (鏑木毅、福田六花共著)

 

ウルトラトレイル・マウントフジ(UTMF)。100マイル=160kmのアップダウンのあるコースを48時間かけて走る過酷なレースで、2012年に第一回目が開催されたときから世界的な注目を集め、現在はトレイルランナーに人気の高倍率レースとなっている。

本書は、自らもトップトレイルランナーである鏑木毅と、トレイルランの魅力にとりつかれた福田六花が、UTMFを立ち上げるまでの物語だ。

ウルトラトレイルをたちあげるのは一大プロジェクトだ。まずはレースコースを決めなければならない。落石や滑落などの危険性を最小限におさえ、安全を保障するのは大前提。160kmともなれば2県10市町村にまたがるから、それぞれの自治体の理解を得る必要がある。富士山麓には豊かな生態系が息づくため、環境保全のために、希少な動植物の生息地をコースに組みこむことはできない。極めつけは富士山麓にある広大な自衛隊演習地である。ここを避けてはコースを引けないから、著者らはみずから防衛庁自衛隊演習地を通過させてくれるよう依頼した。

これ以外にも、富士山の自然を堪能できるコースにしたい、朝日に染まる美しい富士山を一望できるポイントを組みこみたい…などなど、コースそのものの魅力を高めるのも忘れてはいけない。さらにはエイドステーションの設置、誘導スタッフや医療スタッフの配置など、やることは山積みだ。

この難しいプロジェクトを成功させたのは、ひとえにマイナーだったトレイルランをもっと日本に広めたいという両氏と協力者達の情熱による。鏑木氏はこう書いている。

空想し、ワクワク、ドキドキすることで、心に内なるエネルギーを溜め込んでいくのだ。このエネルギーの充電こそが、その先に待ち受けていた幾多の困難を乗り越える原動力になったのだと思う。一時的には興奮しても、時が経つにつれ心の中で醒めてしまうような企画はうまくいった試しがない。

日本最初のウルトラトレイルを立ち上げる。それも日本が世界に誇る美しい富士山で。それはとてもワクワクすることだった。ランナーたちもUTMFを楽しんでくれた。これからもずっと続けていってほしい。