コーヒータイム -Learning Optimism-

本を読むということは、これまで自分のなかになかったものを取りこみ、育ててゆくこと。多読乱読、英語書や中国語書もときどき。

社長が知りたいIT50の本当 (谷島宣之著)

報道で気になるIT関連ニュースが流れたとき、「これって我が社ではどうなってるの?」と聞いてくる社長に、技術面・社内政治面・IT部門の利益面などを考えた上でどう回答するか、という面白くもどこか悲哀漂うコンセプトの本。

悲哀漂うと感じてしまうのは、「社長はITのことをよく知らない、説明しても分かってくれたとは言いがたいし予算もつけたがらない。そんな社長が報道のおかげでITに興味が向いたこの一瞬を捉えて、ITの重要性を分かってもらい、人員や予算を割いてもらえるよう交渉するにはどう言えばいいか」という構図が見え隠れするからだ。経営企画にIT活用を盛りこむことを本気で考え、IT専門家の意見に真摯に耳を傾ける社長は、本書では取り上げていない。

ITをよく知らない社長にうまく説明しなければならないIT担当者の苦労は、技術畑出身ではない上役に説明しなければならないエンジニア全般に通じるのではないかとも思う。一方でこの本は、IT専門家が経営者の姿勢で物事を見る練習にもなる。ちなみに社長が最も関心を持つであろうこと、すなわち、IT導入により競争優位に立てるかどうかだが、本書では「競争優位の獲得につながる業務に極めて積極的でない限り、IT投資を増やしても業績は改善しない、ということだ。つまり経営者次第になる」という答えだ。

 

この本の「18. 役割分担の本当」で企業ITについて深く考察している。

著者は経営資産と呼べるのはソフトウェアではなくデータであると断じる。ただしどのようなデータをどのような構造で取得・整理・活用すればビジネスに役立つかは、使い手側のノウハウそのものであり、IT担当者が決められることではないことを強調する。本書の記述を借りれば「データへの要求にはデータの仕様や構造を含む。したがって利用者が責任を持つ。ビジネスの事実を表現するデータである以上、一般の技術者は責任を持てない」ということだ。

ここに役割分担の肝があると私は思う。さまざまなIT関連書籍で繰り返されていることだが、競争優位性保持のためにどんなことができるようになりたいのか、何が経営上の課題なのか、はっきりしていないと、どんなITシステムが必要になるのかわからない。なのにまるでITが魔法の鍵かなにかのように「効率が上がるらしいからうちでも考えてみないか」という姿勢が、こうした本が必要になる原因ではないかと思う。