コーヒータイム -Learning Optimism-

本を読むということは、これまで自分のなかになかったものを取りこみ、育ててゆくこと。多読乱読、英語書や中国語書もときどき。

[昔読んだ本たち]読書記録さまざま(五)

昔の記録類を片付けていたら出てきた読書記録を見直していく。まだまだ続くと思いきや、これで終わり。缶チューハイとともにどうぞ。アルコールをかけてお焚きあげしたい、思考的迷走とモラトリアムと自己認識歪みが顕在化したかのようなラインナップ。

 

岩月謙司『思い残し症候群 親の夫婦問題が女性の恋愛をくるわせる』

なかなかいい本を書く専門家だと思っていたら、相談に訪れた女性への準強制猥褻罪で実刑判決食らってたからぶっとんだ。でも本の内容は良い。

思い残し症候群は、親にしてほしかったことをしてもらえなかったために発生する。されていないことで傷つくのである。女性の父親への思い残しで一番多いのが「父性愛の欠如」であり、母親への思い残しで一番多いのが「母親から悦びの共感をしてもらってないこと」「母親から幸せを願われないこと」である。

心の中に怒りがあると、自分がなにをしている時に一番嬉しいのか、悦びの感情が湧かなくなるので、ズレたまま行動している自分に気づかなくなる。だが結婚生活で最も重要なことは、相手の悦びに共感できるかどうかなのだ。

女性は父親と自分との関係と、恋人と自分との関係がイコールになるような恋人選びをしてしまう傾向が非常に高いので、機能不全家族で育った女性の多くが恋愛不全になりやすい。なぜなら親の子への愛というのは【いかに親以外の人から愛情をもらうか、その方法を教えること】であると言ってもよいが、親から最低限の愛情をもらえないと、人間不信が強くなって、親以外の人から愛情を調達できなくなるからだ。

 

岩月謙司『なぜ白雪姫は毒リンゴを食べたのか』

なぜ、「白雪姫」は毒リンゴを食べたのか

なぜ、「白雪姫」は毒リンゴを食べたのか

 

私の本の選び方は、なかなか良い本に出会うと、同じ著者が書いたほかの本も片っ端から読んでみる、というものだ。これもその過程で読んだ一冊。

子供は親に共感された時、親に愛されていると感じる。悦びの共感がなによりの励ましなのだ。だが嫉妬されれば存在を否定されているも同然だと感じ、激しい恐怖を回避するために行動するようになる。第一希望を実行すれば嫉妬されるから、それを回避し、第三希望を実行して安心するのだ。これは幸せ破壊行動以外のなにものでもない。幸せ恐怖症になるのだ。

幸せ恐怖症を克服するためには、なぜ幸福が怖いのか、なんのために幸福を壊すのか、メリットはなにか、という幸せ回避と幸せ破壊の目的と利益を分析しなければならない。「ああ、自分はなんてバカなことをしてきたんだ!」と自己嫌悪でき、過去の自分の不自然な行動を心の底から醜いと思えるようになれば、それがブレーキとなり、幸せ破壊行動を止められるようになる。

 

岩月謙司『娘の結婚運は父親で決まる』

同じ著者による本の3冊目だが、内容がだんだん以前読んだ2冊に似通ってきたので、読書記録は言葉少なだった。

 

酒井順子『負け犬の遠吠え』

負け犬の遠吠え

負け犬の遠吠え

 

勝ち組負け組を堂々と書いた強烈なエッセイ。

面白いことより、将来的に得なこと、と考えるのが未来の勝ち犬であり、今面白いことをしたいと考えるのが未来の負け犬だ。他人にお得感を与えることができる一方、それにすがって生きるのは痛々しい上に哀しみも伴うので、弱みやマイナス面もちらりと見せて親近感を得る。いかに生きるかはこのバランスのとり方にかかっている。

 

香山リカ『くらべない幸せ』

くらべない幸せ ?「誰か」に振り回されない生き方?

くらべない幸せ ?「誰か」に振り回されない生き方?

 

何冊かこの手の本を読んでいたことが読書記録からわかるが、たいていは女性側が男性に選ばれるようにいろいろ努力しなければならないという内容で、古風な考え方に思える。まだ過渡期だったのかもしれない。その中で香山リカ氏の著書はかなり女性の自立を肯定しており、今のままの自分を肯定して自尊心をもちなさいということを説いている。

 

アラン・ピーズ&バーバラ・ピーズ『嘘つき男と泣き虫女』

文庫版 嘘つき男と泣き虫女

文庫版 嘘つき男と泣き虫女

 

男女性差について分析した名著。男はもともと狩猟者であり、獲物を倒し、家族を敵から守るために狙いを正確に定めなければならない。ゆえに男脳は視覚・空間領域が発達している。標的を正確にねらいうちすること、問題を解決すること、男の存在理由はその二つに尽きる。男にとって女からアドバイスされることは、問題解決できない無能者の烙印を押されるのと同じであり(また育つうちにそう感じるよう条件付けされ)、逆に女の問題を解決してやることで、愛情を表現しているつもりになるのだ。

 

デヴィッド・M・バス『女と男のだましあい ヒトの性行動の進化』

女と男のだましあい―ヒトの性行動の進化

女と男のだましあい―ヒトの性行動の進化

 

同じテーマの本をもう一冊。われわれが現在採用している性戦略は、先祖に作用していた淘汰圧によってつくり出されたものである、ということが本書の中心だ。

女は初期投資の大きさゆえに、配偶者選択に慎重になるよう進化してきた。卵子数、十月十日の懐妊におけるエネルギー消費、一、二年にわたる授乳という莫大な投資を覚悟しなければならないため、投資に見合う利益をもたらしてくれる資質をそなえた男性を好む。経済力と浮気しない真面目さである。

一方男性は繁殖能力という直接知ることができない資質を重視するよう進化してきた。若さ、身体的な美しさーーなめらかな肌と美しい目は若さと健康を示すものでもあるーー、また魅力的な女性を手に入れられることは男性の社会的地位の高さの証明にもなる。女性は社会的地位の高い男性に惹かれるよう進化したからだ。特に男性が純潔と貞淑を重視するのは、子供が間違いなく自分の子孫であることを保証する手段としてである。

 

斎藤学『家族依存のパラドクス オープン・カウンセリングの現場から』『アダルト・チルドレンと家族』

アダルト・チルドレンと家族―心のなかの子どもを癒す

アダルト・チルドレンと家族―心のなかの子どもを癒す

 

 

同じ著者による本を続けて2冊。いずれも家族をテーマにしている。アダルト・チルドレンの特徴と対処方法をわかりやすくまとめている。

脳みそを揺さぶられるミステリーの傑作『ウォッチメイカー』

尊敬するブログ「わたしが知らないスゴ本は、きっとあなたが読んでいる」の中の人に選ばれた徹夜小説。ブログでも紹介されている。明日の予定のない土曜の夜に待ちきれず手にとった。

『スゴ本』中の人が選ぶ、あなたを夢中にして寝かせない「徹夜小説」5作品 - ソレドコ

徹夜小説『ウォッチメイカー』: わたしが知らないスゴ本は、きっとあなたが読んでいる

 

途中で頭がくらくらしていったん休憩が必要になった。あまりにもたて続けにこれまで読んできた物語が塗りかえられて、息切れしている。脳は興奮しきっていてこのままではオーバーヒートするから、冷やさなければならなくなった。こんなことは初めてだ。全力で殴られる感覚。まさにこの表現がふさわしい。

誰が嘘をついている? 誰の言葉が事実と同じ?

読んでいると何度もそう確認したくなる。主人公の四肢麻痺の科学捜査専門家 (いわゆる安楽椅子探偵) リンカーン・ライム、その相棒で現場検証のエキスパートであるアメリア・サックス、協力関係にある刑事ロン・セリットー。これらの人々はまあさすがに信用できるとしても、それ以外の登場人物の全員を疑いの目で見ずにはいられなくなるほど、見事に作者に騙される。ほっと一息つく瞬間を狙ってとんでもないことを挿しこまれるから、また息を殺して続きを読むはめになり、いっこうに心臓が落ち着かない。

この本は確かに、そう、ある地点を過ぎればそこから先はなにが起ころうとも本を離す気になれないだろう。最後まで読み終えるまで。

 

アメリカ人のネタ帳『4000 Decent Very Funny Jokes』

どのページを開いてもおもしろい英語のジョーク集。数行という短さゆえすぐに読めて、ふふっと笑える。

58.

First Soldier: "What made you go into the army?"

Second Soldier: "I had no wife and I loved war. What about you?"

First Soldier: "Well, I had a wife and loved peace!"

兵士1: どうして軍隊に入ったんだい?

兵士2: 妻がいないし戦争大好きなんだ。君は?

兵士1: うん、僕には妻がいて、平和を愛しているんだ!

平和主義の妻のために軍隊に入ったというほほえましい読み方もできるけれど、まあおそらく毎日妻とケンカして家庭が戦争状態なんでしょうね…。ジョークの中では結婚は墓場、妻は口うるさい、というのを笑いとばすものが数多い。以下もそのひとつ。

111.

“Liza, I cannot marry John. He does not believe in hell.”

“Don’t worry about that. You just marry him. He will start believing in hell soon after!”

「リザ、私ジョンと結婚できない。彼は地獄を信じていないのよ。」

「心配いらないよ。結婚なさいな。彼はすぐに地獄を信じるようになるから!」

リザの友達が、ジョンを「地獄を信じないから結婚できない」といっているのは、宗教心が薄く、キリスト教の世界観を信じないという意味だ。おそらく友達自身は信仰心厚く、夫となる人にも同じ信仰心をもってほしいのだろう。ところがリザはそれを知ってか知らずか、「結婚は墓場」だから結婚生活は地獄だって彼はすぐに思うようになる、という返しをしているのがユーモラス。

 

仕事もジョークのネタにされる。アメリカではおそらく弁護士関係のジョークが多いだろうが、そのほかにもさまざま。

96.

Editor: “Did you write this poem?”

Contributor: “Yes, every line of it.”

Editor: “Then I am glad to meet you, Mr. Edgar Allan Poe. I thought you were dead long ago!”

編集者: この詩はあなたが書いたのですか?

投稿者: そうだよ。どの行もね。

編集者: なら、あなたに会えて光栄です、エドガー・アラン・ポー様。あなたはずっと前に亡くなったと思っていましたよ!

要するに名作家エドガー・アラン・ポーの詩のパクリだったということ。編集者の皮肉たっぷりの返しがおみごと。


ふふっと笑えるジョークを読みながら、英語圏の文化事情にもふれられる本。午後のお茶受けにぴったり。気分が晴れない日の特効薬としてもどうぞ。

 

[昔読んだ本たち]読書記録さまざま(四)

昔の記録類を片付けていたら出てきた読書記録を見直していく。今回は男女関係の本が多めな気がする。

 

ダン・ガードナー『リスクにあなたは騙される 「恐怖」を操る論理』

リスクにあなたは騙される―「恐怖」を操る論理

リスクにあなたは騙される―「恐怖」を操る論理

 

飛行機に乗る方が車より危険だと感じたことはないだろうか?  統計上の事故死亡率は真逆である。

人は理性のほかに太古から生存のために進化してきた「無意識」「腹」「感情」などと呼ばれるものがあり、この判断時間は短く、影響力は強いが、狩猟時代でなくなった今は、現代にそぐわない判断を下すことも多い。そのため人はリスク判断が難しいし、外部条件によって実際とはまったくちがう判断をすることもある。

 

衿野未矢『依存症の女たち』

依存症の女たち (講談社文庫)

依存症の女たち (講談社文庫)

 

衿野未矢は、女性のふるまいを同じ女性の立場から丁寧に拾い上げてエッセイに書いている。登場する女たちはごく普通に歩いていそうな女子ばかりで、一見変わっているようには見えない。だが、つきあってみると違いはすぐわかる。携帯をいじらずにはいられなかったり、いつもなにかを食べていたり…。

対象へののめりこみが悪影響を及ぼしているのに「せずにいられない」と追いつめられた気持ちになって、さらにのめりこむ。激しく後悔し、その後悔がさらに依存に追いやるという負のスパイラルを、まるで再現ドラマのようにはっきりイメージできる形で書いている。

 

衿野未矢『「さん」の女、「ちゃん」の女』

「さん」の女、「ちゃん」の女

「さん」の女、「ちゃん」の女

 

同じ著者による本をもう一冊。選ばれ女子、愛され女子の先駆けのような内容。

「さん」の女は、仕切りや段取り、責任を引き受け、うまくいかなかったら反省する。「ちゃん」の女は感覚的に行動してうまくまわりに動いてもらい、うまくいかなかったらすべて他人のせいにできる強さとたくましさがありながら、お金や愛情などに頼らないと生きていけないので、男性から「守ってあげたい」と思われて結婚も早い。結論からいうと「さん」の女は「ちゃん」の割合を増やすと、男性にとって気になる存在になれる。

 

白河桃子『結婚したくてもできない男 結婚できてもしない女』

結婚したくてもできない男 結婚できてもしない女

結婚したくてもできない男 結婚できてもしない女

 

男性が見たら憤慨しそうなタイトルだが、2000年代初めの自由恋愛時代をまじめに書いた本。

 

亀山早苗『渇望 女たちの終わらない旅』

渇望 - 女たちの終わらない旅 (中公文庫)

渇望 - 女たちの終わらない旅 (中公文庫)

 

この著者は不倫を男女両方の側から書いたルポルタージュを出しているが、この本は少し違う。更年期前後の女性たちのエピソードから、人生を振り返ったときに感じること、女として終わりに近づいていることに対する焦り、寂しさ、孤独感を描写している。自信がないから卑下し、それが女の心を哀しくねじ曲げていく。シングルの女性が母の介護をしながらふと「私が倒れても誰も見つけてくれない」と思う。タイトルは孤独に苛まれ、女としての幸せを渇望するという意味だ。

 

香山リカ『恋愛不安 大人になりきれない心が欲しがるもの』

恋愛不安 (こころライブラリー)

恋愛不安 (こころライブラリー)

 

どんな恋人がほしいかもわからないまま、恋をしていないと不安、恋さえすれば悩みは解決、という思いこみにはまる女性たちを容赦なく書き立てる本。恋愛に必要なのは、私は人を好きになっていいんだ、私は好きな人に自分の気持ちを伝えていいんだ、私は愛されていいんだ、と思うのに必要最低限な自己信頼感だと、著者は指摘する。

 

香山リカ『女は男のどこを見抜くべきか』

女は男のどこを見抜くべきか

女は男のどこを見抜くべきか

 

同じ著者による本がもう一冊。こちらは恋人の選び方。

 

[昔読んだ本たち]読書記録さまざま(三)

昔の記録類を片付けていたら出てきた読書記録を見直していく。気軽な読みものもそれなりに読んでいたが、人間関係の本に絞って読書記録を取っていた。なんかすごいラインナップでお焚きあげ供養したくなったが、記録破棄ももったいないので、10年以上前の自分が思考的に迷走しまくっていた記念としてブログにあげておく。

 

加藤諦三対象喪失の乗りこえ方』

対象喪失の乗りこえ方 ~別れ、失恋、挫折の悲しみを引きずらないために~

対象喪失の乗りこえ方 ~別れ、失恋、挫折の悲しみを引きずらないために~

 

対象喪失により誰もが傷つくが、その処理を間違え、自分の気持ちを抑圧したり現実から逃れようとしたりすると、それがツケとなっていつまでも囚われたままになってしまう。これを乗り越えることは最高の自分へ成長するきっかけとなるのに。まずはツケを払うことだ。傷と真正面から向き合い、悲しみ、断念することで前進することだ。

 

岡田尊司『パーソナリティ障害 いかに接し、どう克服するか』

パーソナリティ障害―いかに接し、どう克服するか (PHP新書)

パーソナリティ障害―いかに接し、どう克服するか (PHP新書)

 

この著者の本は何冊か読んでいるが、どれもいい考えるきっかけを与えてくれる本だ。ちなみに以前は「人格障害」という言葉が使われていたが、いつからか「パーソナリティ障害」になったところに、大人の事情があるのかと勘ぐってしまう。

パーソナリティ障害は、偏った思考・認知・行動パターンのために生活に支障をきたした状態である。自分に強いこだわりを持ち、とても傷つきやすいが、根底には自己愛障害がある。幼い頃親に認められなかったために昇華しなかった承認欲求が肥大化していたり、対象恒常性が育たずその場その場の対応をその人のすべてだと誤認する「オールオアノン」の考え方をするのだ。

 

加藤諦三『嫌いなのに離れられない人 人間関係依存の心理』

嫌いなのに離れられない人 人間関係依存症の心理

嫌いなのに離れられない人 人間関係依存症の心理

 

この著者の本は何冊か読んだが、依存心、家族関係をテーマにしたものが多い。

依存心の強い人には不満と敵意と恐れという三つの傾向がある。要求が多く、裏には常に支配性があるが、それを満たされないがゆえに不満と怒りを抱き、なのに相手に嫌われるのが怖くて表現できないのだ。この敵意や、敵意を隠したときに生じる心の葛藤がコミュニケーションを破壊する。

 

斎藤学『インナーマザー あなたを責めつづける心の中の「お母さん」』

インナーマザー―あなたを責めつづけるこころの中の「お母さん」

インナーマザー―あなたを責めつづけるこころの中の「お母さん」

 

この著者は精神科医で、親と子の関係、それから生じうる病理の臨床症例経験が豊富だ。

親の望む自分を演じ、一定の役割を果たすことを期待された子供は、親から離れても自分の中にとりこまれたインナーマザーが「こうしなさい」と命令してくる。親の教義に従って必死に生きているけれど、自分自身の中身がなく、本当の自分はとても空虚だ。それを埋める相手を急いで見つけるけれど、悲劇的なのは、自分が育ってきたのと同じような機能不全家族をつくりあげてしまうこと。そこは慣れ親しんだ環境であり、居心地良いと感じてしまうからだ。

 

斎藤学講義集『心のうちの子供と出会う』

心の内の子どもと出会う (斎藤学講演集2)

心の内の子どもと出会う (斎藤学講演集2)

 

同じ著者の講義集。親の虐待がテーマだ。

現実の親は子供を二通りのやり方で虐待できる。一つは侵入すること、もう一つは条件付きの愛で愛すること。この両方とも、親は愛しているつもりで虐待しているというのが著者の見解だ。

子供が生き残るにはやはり二つ方法がある。一つは感情を鈍麻させること。こうすると子供は記憶を失うことになる。なんの意味もないからだ。もう一つは自分の中にいじめっ子を育てて自分をいじめること。いじめられる方の自分は本来の自分だから、いくらいじめてもかまわず、自分を痛めつけてダメさをとことん証明できる。そうすることで「それを批判する自己」という、わずかに力を持った存在が生き残ることができるからだ。

著者は言う。この二つの方法をやめさせる。そんなことをしなくてもあなたはそのままで生きられると、教えるのが自分の仕事だ。

 

田中俊之『男がつらいよ 絶望の時代の希望の男性学

男がつらいよ 絶望の時代の希望の男性学

男がつらいよ 絶望の時代の希望の男性学

 

男らしくあれ、弱音を吐くな、働いて家族を養え、競争に勝て。そう生きることを義務付けられることは実はとても疲れる。

卒業→就職→結婚→定年という一本道をたどるのが難しい時代となっているのに、こうすることが価値がある、男らしい、とされている。男性は「競争」を要請され、このような「男らしい」半面多様性がない生き方を強いられるところに生きづらさの原因がある、と著者は書く。ライフプランを見直し、ワークライフバランスを考えるべきなのだ。

 

タル・ベン・シャハー『ハーバードの人生を変える授業』

ハーバードの人生を変える授業 (だいわ文庫)

ハーバードの人生を変える授業 (だいわ文庫)

 

すばらしい行動するためのワークを列記した書。感謝する、習慣化する、運動する、意義を見出す、といったようなことを、心がけだけではなく実際に書き出したりしてワーク化しているところが、いかにもアメリカらしい。

 

[昔読んだ本たち]読書記録さまざま(二)

昔の記録類を片付けていたら出てきた読書記録を見直していく。中には読んだことすら忘れているものもあって、我ながら呆れる。

 

シーナ・アイエンガー『選択の科学』

選択の科学

選択の科学

 

アメリカ人がこよなく愛する「選択」についての本。

さまざまな心理的・科学的実験から、〈選択すること〉を掘り下げていく。私達が〈選択〉と呼ぶものは、自分自身や自分の置かれた環境を、自分の力で変える能力のことで、これを持っているという認識が私達を元気づけ、選べるために力をつける動機となる。けれど人は心理的作用で選択を強制されるーー他人と同じものを頼みたくない、自分のイメージにふさわしいのはこれだ、などなど。時には愛する者の延命を続けるかどうかなどという残酷な選択を迫られることがあり、その代償として苦しむこともある。それでもなお私達は〈選ぶ〉ことができるのだと、本書は力強く説く。

 

西尾和美『機能不全家族

機能不全家族―「親」になりきれない親たち (講談社プラスアルファ文庫)

機能不全家族―「親」になりきれない親たち (講談社プラスアルファ文庫)

 

なんとなく心理学関係の本が続く。

この本は親が健全に機能するためのコミュニケーション方法を記した指南書だ。もう一度自分の人生を追体験するワークを読書記録にメモしている。(1) リラックス→(2) 子供の頃の体験をモノクロの映画スクリーンに映すイメージで見て、新しい発見を心にとどめる→(3)映画スクリーンに入りこみ、いま自分が学んだことを子供の自分に伝え、やさしくなぐさめる→(4)子供の自分に入りこみ、親に言いたかったこと、したかったことをするイメージをつくる、というものだ。

 

長山靖生『若者はなぜ「決めつける」のか』

若者論の一冊。ひねくれた見方をすれば「若者」というくくりがすでに決めつけにも思えるが、それはおいておく。

自己決定論には、実際には実行能力や権限がないにもかかわらず(ここ重要)、選ぶことを強い、それを自分のせいにするという側面がある。ゆえに若者は選んだことに対してどこか他人事のように感じて、それは同時にダメなところを認めない態度にもつながる、という内容。

 

犬山紙子『高学歴男はなぜモテないのか』

高学歴男はなぜモテないのか (扶桑社新書)

高学歴男はなぜモテないのか (扶桑社新書)

 

話つまらないから!  で終了しそうなタイトルだが、高学歴男の実際のところをとても丁寧に読み解いている本。

自己防衛心が強い、自己顕示欲が強い、頭の中でストーリーをつくり現実とのギャップに悩んでしまう、理屈で作戦をたてるあまり一番大事な「相手の感情」を無視してしまう…そんな自分中心の考え方をすると女性に見抜かれてモテない、と一刀両断にする。女性にびびらず実体験を積める打たれ強さが一番必要だと著者はいうが、これが高学歴男には一番難しかったりするから世の中上手くいかないものだ。

 

白川桃子『格付けしあう女たち

(010)格付けしあう女たち (ポプラ新書)
 

マウンティングという言葉が定着して久しい。港区女子、キラキラ女子、白金マダムなどが代表的か。

女同士が格付けしあうのは、否定されたくないという守りの気持ちからだと著者は言う。自分の実力ではなく夫や子供の出来で評価されるから、逆に不安になり、自信を持てず(自己承認につながりにくく)、自分の選んだことは本当によかったのかと心が揺れるのだ。だからこそ小さな違いで人を格付けし、自分の位置を確認し、これで良いのだと自己防衛せずにはいられない。著者はサバイバル方法として(1)複数の足場を持つ、(2)問題解決能力を持つ、(3)自分を肯定すること、が必要だと説く。

 

マリー・フランス・イルゴイエンヌ『モラル・ハラスメント』

モラル・ハラスメント―人を傷つけずにはいられない

モラル・ハラスメント―人を傷つけずにはいられない

 

読み進めるのがきつい本。モラハラ人間は特別な性格の持ち主ではなく、誰もがそうなりえるという点で。

モラル・ハラスメントの加害者は自らの内心にある葛藤を外部に向けて、自分よりすぐれていると思われる他人を破壊し、自分に脅威を与えないレベルまで落とさないと生きていけない人間だ。初めから悪いのはすべて相手だと思っている。初めにはまず被害者を同情や罪悪感などて巧みに支配下におくが、そこにあるのは相手の持つものを羨ましく思い、手に入れるために支配しようという心理だ。だが被害者が抗おうとすると、加害者の羨望は憎しみに変わり、相手をその持ちものごと破壊にかかる。対話の拒絶、言葉と表情の不一致、ほのめかし…小さな悪意ある暴力を重ねて相手を混乱させ、破壊しようとするのだ。これは両者が離れるまで止まらない。

 

古市憲寿『希望難民ご一行様 ピースボートと「承認の共同体」幻想』

希望難民ご一行様 ピースボートと「承認の共同体」幻想 (光文社新書)

希望難民ご一行様 ピースボートと「承認の共同体」幻想 (光文社新書)

 

居酒屋でよくポスターを見かけるピースボートに、筆者が乗ってみたという本。

若者は「市場とは異なる、相互承認を生み出しうる社会関係」を希求している。ここでは「承認の共同体」としてピースボートに乗る若者達をとりあげるが、彼らを見る筆者の目は冷ややかだ。彼らは世界を見たいというよりは、同じような人と集うことで共同体をつくる足がかりとしていると決めつけている。

 

根本橘夫『「いい人に見られたい」症候群 代償的自己を生きる』

「いい人に見られたい」症候群―代償的自己を生きる (文春新書)

「いい人に見られたい」症候群―代償的自己を生きる (文春新書)

 

読み進めるとぐさぐさ来る本。

「いい人を演じている」という感覚、それゆえに「偽りの自分」を生きている、「本当の自分」は別にあるという感覚がある人は「代償的自己」を生きている。すなわち自分の生身の感覚、感情、欲求、願望、衝動をさておいて、外界から期待されている自分、外界が歓迎する自分として感じ、思考し、欲求し、行動しようとする自分のことだ。もっぱら外的要請に自分を譲り渡して発達していくのが「代償的自己」だ。

これについては耳が痛い。今していることは本当に自分が望んでいることなのか、それともそう期待されているからやっているのか?  考え始めるときりがなく、哲学的思考にまで落ちこんでいきそうな気がする。

 

アルテイシア『恋愛格闘家』

恋愛格闘家

恋愛格闘家

 

著者は人気ライターで、相当凄い人生経験の持ち主だ。これまでつきあった男は58人。59番目の男と一緒になり幸せになった著者が、これまで出会った男について書き、本気で愛し愛される人を見つけるまで、戦いのリングから下りないことを選んだのだと綴る。自分より強い男にしか弱いところを見せたくない筆者が、傷ついて別れて悟ったのは、本当に強い男は往々にして強く見せるのが下手ということだった。

 

石原加受子『「つい悩んでしまう」がなくなるコツ』

「つい悩んでしまう」がなくなるコツ

「つい悩んでしまう」がなくなるコツ

 

石原加受子さんの本はどれも読みやすい。

悩むのは自分を愛し足りていないから。悩みがあると、自分のどこを愛し足りていないかがわかる。悩むのは自分のマイナス感情を出せていない、自分を抑圧しているから。けれどマイナス感情を蓄積させていればいるほど、無意識に「人を傷つける言動」をとっていく。相手のことばかり考えて他者中心になると、発する言葉も「あなたは」から始まり、その多くが相手を責めたり、非難したり、上から目線の言葉になりがち。そうならないために、自分の感情をすなおに受けとめ、自分が楽になるように行動するのがコツだ。

 

今野晴貴ブラック企業 日本を食いつぶす妖怪』

ブラック企業 日本を食いつぶす妖怪 (文春新書)

ブラック企業 日本を食いつぶす妖怪 (文春新書)

 

『モラル・ハラスメント』の実践書と言っても言いすぎではない本。解雇できない正社員を退職に追いこむために企業はまさにモラハラの手法で若者をうつに追いこみにかかる。対抗するには戦略的思考をもつこと、自分が悪いと思わないこと。会社の言うことは疑ってかかり、簡単に諦めず、労働法や専門家を活用せよ、と筆者は言う。

この本を読むと、日本の正社員はおとなしいと思う。これがアメリカなら訴訟沙汰に違いないし、そもそもさっさと転職しているだろう。

著者はこの本の続きも執筆している。続きではブラック企業が解雇できない従業員を退職に追いこむ技を、より深く掘り下げている。

 

今野晴貴ブラック企業2  「虐待性管理」の真相』

 

 

 

[昔読んだ本たち]児童読みもの編

昔の読書記録を整理しているうちに、子供の頃読んだ本たちのことも思い出してきた。毎週図書室に通っていたけれど、大人になってからも覚えている本はそんなに多くない。記憶に残っている本は、それだけ印象深いものがあった。一つ一つ思い出してみたい。

それぞれの本には、印象に残っているフレーズがある。古い記憶ゆえ間違っているかもしれないけれど、覚えているままに書いた。

 

松谷みよ子「直樹とゆう子の物語」シリーズ

屋根裏部屋の秘密 (偕成社の創作(38))

屋根裏部屋の秘密 (偕成社の創作(38))

 

直樹とゆう子の兄妹が、ゆう子がまだよちよち歩きのころからしだいに成長しながら、さまざまなことを知ってゆく物語。全5冊あり、それぞれ原爆、公害、ユダヤ人虐殺、七三一部隊、太平洋戦争終戦をテーマとしている。私は小学生の頃読んだ。わかりやすい語り口で、子供向けゆえ必要以上に陰惨になることなく、けれども考えさせられる物語。

ぼくはーーぼくはその時、エリコの苦しみがわかったんだ。

 

岡本淳『選ばなかった冒険ーー光の石の伝説』

選ばなかった冒険―光の石の伝説 (偕成社ワンダーランド (17))

選ばなかった冒険―光の石の伝説 (偕成社ワンダーランド (17))

 

ごく普通の小学生たちが迷い込んだドラゴンとファンタジーの世界で、どうすればいいかわからないなりに必死に生還する物語。私が読んだ児童書で、初めて後味の悪さを感じた作品。

光の石に、願いごとを。

 

浜野えつひろ『電子モンスター、あらわる!』

電子モンスター、あらわる!―コンピュータゲームからの秘密通信 (創作のとびら)

電子モンスター、あらわる!―コンピュータゲームからの秘密通信 (創作のとびら)

 

あらゆるものが電子制御される電子都市が、政府によってつくられた。ある日電子都市に大雨が降り、メインコンピュータに落雷があった。同じころ、電子都市の主任の息子で、ゲーム大好きな小学生であるワタルが、ゲームの画面の中から勇者に話しかけられて仰天する。それは、落雷がきっかけで生まれた、意志を持つコンピュータプログラムだった。

ラストが悲しいお話。生きたいと願うコンピュータプログラムは、自分をウイルス扱いして消し去ろうとする電子都市の大人たちに反抗するために、原子力発電所のコンピュータに侵入してそこで増殖を始めた。原子力発電所の制御プログラムを破壊されれば原子炉が暴走する。電子都市が大混乱に陥るなか、ワタルは父の同僚である青木とともに原子力発電所に乗り込み、「友達」の説得にあたる、というお話。電子空間に生まれる意志あるもの、原子炉の暴走、危機管理、友達とのつきあい方と、読めば読むほど味わい深い作品。

だれよりも生きることを望んでいたのに…。

 

斎藤洋『ようこそ魔界伯爵』

ようこそ魔界伯爵 (偕成社おたのしみクラブ)

ようこそ魔界伯爵 (偕成社おたのしみクラブ)

 

主人公の小学四年生が、父母が会社の慰安旅行に出かけている間、叔母にあずけられることになったが、叔母が信じられないくらい大金持ちで、しかも運としか思えない方法でお金を簡単にかせぐのを見てびっくりする。やがて、叔母の家に集まる奇妙な人たちが、じつは魔界出身者であることを知り、自分が魔界伯爵の素質を持っていることを知る。物語の内容もさることながら、小学生の想像力の限界を駆使した贅沢品の描写がおもしろい。

「これは、値引きなしの現金価格一億円の特別注文のベンツで、エンジンの排気量は12500CCです。」

なんてボンネットに書いておいたとしても、誰も疑わないような車に乗って、…

 

村山早紀魔法少女マリリンシリーズ」

手書きで全文書き写してしまうくらい(!) 好きだった作品。美しい都を治めた伝説のお姫様、ユリアナがかけていた青い石の首飾りをめぐる冒険の旅。普段はなかなかうまくいかないけれどいざとなったらすごい魔法を使える少女マリリンが、酒場で出会った仲間たちとともに、王子様の依頼で魔物の森に踏みこむのは、まさにRPGの世界そのもの。

そうよ、わたしはあきらめない。

だって夏休みは、まだまだ終わらないーー

 

野村路子テレジンの小さな画家たち』

第二次世界大戦中のユダヤ人虐殺に、初めてふれた作品。テーマゆえどうしても残虐性にふれないわけにはいかないけれど、印象に残ったのは、収容所の中でも希望を失わず、子供たちに教育をしようと尽力する大人たちや、絵や詩を通して自分を大切にすることができた子供たちの姿だ。

あなたたちには名前があるのよ。ドイツ兵がどう呼ぼうと、番号をつけようと、あなたたちには、親からもらった大切な名前があるの。


『黄金の脳を持つ男』(世界こわい話ふしぎな話傑作集)

怖がりのくせに読んでしまった一冊。七編のふしぎな話を収録した短編集で、怖さの中にユーモラスがある物語集だ。最初にでてくるヘルモンティス姫のミイラの足の物語が一番好きだ。

ところが、どうだ。このわしの肉体は鋼のように硬い。わしはこの姿で、世界の最後を見届けてやるのだ。姫だって…いつまでもほろびないのだ。

 

中村妙子『クリスマス物語集』

クリスマス物語集

クリスマス物語集

 

表紙の美しさに惹かれた本。世界で読みつがれているクリスマスにちなんだお話を集めた短編集になっており、それぞれが遠い異国のクリスマスの雰囲気を味わせてくれる素敵な本。プレゼントにもぴったり。

それでこそ、私のかわいいゾフィーだ。りんごの貯金箱を持つにふさわしい、考え深い子さ。

 

フィリス・レノルズネイラー『さびしい犬』

さびしい犬 (世界の子どもライブラリー)

さびしい犬 (世界の子どもライブラリー)

 

犬がほしくてたまらない主人公マーティが、乱暴者の隣人ジャッドに邪険にされている犬にシャイローという名前をつけ、シャイローを自分の飼い犬にしたいと悪戦苦闘する物語。少年がシャイローを両親に見つからないように隠し、あれこれ手をつくしてエサを確保するさまが微笑ましい。

驚いたこは、物語の中で、マーティがまだ子供にもかかわらず、まわりの大人が対等に接していたことだ。乱暴者ジャッドでさえ、犬がほしいというマーティの願いを子供の戯言と聞き流すのではなく、正面切って向き合っていた。

おまえにも飼い犬ができたな。

 

マリア・グリーペ『自分の部屋があったら』

自分の部屋があったら (世界の子どもライブラリー)

自分の部屋があったら (世界の子どもライブラリー)

 

この本は三部作の2冊目で、1冊目は『エレベーターで4階へ』、3冊目は『それぞれの世界へ』というタイトルだ。

母ひとり子ひとりの生活を送る女の子ロッテン。意地悪なラーションのおかみさんのところに住まわせてもらっていたが、ロッテンを嫌うおかみさんに追い出されるようにして母娘は家を出て、母親のエルサは住みこみの使用人の仕事を見つけた。

ロッテンは母の雇い主〈ご主人〉の娘マリオンと仲良くなり、美しく上品な女主人オルガを大好きになる。マリオンはお金持ちのお嬢様らしく多少わがままなところがあり、厳格な〈ご主人〉を好きではなく、〈ご主人〉は実親ではないと思いたがったり、ちょっとしたいたずらをしかけたりする。ロッテンともケンカしたり仲直りしたり、なんだかんだ友達付きあいをしていた。ロッテンはマリオンの家族とオルガにあこがれ、使用人部屋に母親と二人で住んでいる自分自身を顧みて「自分の部屋がほしい」と思い始める。

物語はお金持ち家族とその使用人の子供同士の友情についてではあるが、子供のころにはそんなことを気にせずつきあえる。だが3作目『それぞれの世界へ』というタイトルにあるように、いずれ道は分かれる。子供から大人へしだいに成長していき、世のせちがらさを知っていく二人の女の子を描いた、印象深い作品だ。

二クローネ銀貨が一枚、机の上で光っていた。…二週間に一度まとめてもらうのが、このお金だ。ロッテンは二クローネ銀貨を渡してくれるときのママの、おごそかな表情を思い出した。その銀貨を入れた貯金箱を振ってお金持ち気分になったときのことを、はっきりと思い出した。