コーヒータイム -Learning Optimism-

本を読むということは、これまで自分のなかになかったものを取りこみ、育ててゆくこと。多読乱読、英語書や中国語書もときどき。

金正日の料理人 (藤本健二著)

著者は1982年に北朝鮮に渡り、最初は寿司店で、次は金正日専属料理人として腕をふるった。

仕事柄、著者が見るのは金正日の食事風景やその前後のプライベートな光景が多い。金正日はマグロが好きで、味覚が鋭く、美味なものを聞けばすぐに食べてみたいと言い出す。散歩を欠かさず、乗馬やマリンスポーツを楽しみ、マリンスポーツで著者と勝負する。汗を流したあとは、著者の寿司や和食を美味しいと言って食べる。

ひやりとする場面も登場する。北朝鮮出身の女性と再婚する際にパスポートを預けさせられた。万年筆型のピストルが見つかった。何故か軍事工場の視察に同行した。日本で出入国管理法違反扶助の罪で逮捕された。かろうじて北朝鮮に戻ってからアパートに一年以上軟禁された…どれも深読みすればどれほどの危機だったか鳥肌が立つ。だが著者はあえてそれに深入りすることはせず、当時自分が感じた混乱、驚き、絶望を日記のように書き留めるにとどめている。

読んでいて感じたのは、著者が北朝鮮で過ごした日々をすばらしかったと感じていること。金正日が確かな舌で料理を評価してくれたことに喜びと満足感を覚えていることだ。