コーヒータイム -Learning Optimism-

本を読むということは、これまで自分のなかになかったものを取りこみ、育ててゆくこと。多読乱読、英語書や中国語書もときどき。

パティシエ フランス菓子職人の仕事 (永井紀之著)

タイトルのようにフランス菓子紹介というより、お菓子を通して見たフランス文化、日本文化との違いを紹介した一冊。著者は料理学校卒業後、フランス菓子に造詣深い先輩シェフに影響されて単身フランスに渡り、言葉、文化、すべてが違うフランスのレストランでパティシエやシェフとして働きながらさまざまな技術や考え方を吸収し、日本帰国後、自分の店を構えている。

著者はフランス菓子をフランス食文化の一部としてとらえ、フランス菓子を食べるときは単に感心するのではなく「何かまったく自分の知らないものに触れた」という体験として自分の中に蓄積していかなければダメだという。ただ感心して思考停止するのではいけない。たとえばフランス菓子にはバターがふんだんに使われるが、これは日本の和菓子とはまったく異なる特徴だ。フランス菓子にバターがよく使われるのは酪農業が発達しているからであり、酪農業を支える地理、気候条件があってこそだ。今でこそ世界各地さまざまなお菓子が東京でも手に入るが、かつてはバターを使ったお菓子は日本人にはまったく目新しいものだったろう。そういう新鮮さを忘れず、背後の歴史、精神、フランスという国の成り立ちまで思いを馳せるべきだというのが著者の意見だ。

フランスは良くも悪くも個人主義で、ごく基本的な感覚として、まず個人があり、個人が社会を作るのだという考えを社会全体で共有している。これに慣れた著者には日本の「まず会社ありき」の考え方がどうしても違和感を覚えるという。面白いことにお菓子にもそれが現れていて、フランス菓子はひとつひとつの食材がそれぞれのアイデンティティを失うことなく調和していなければならず、味が感じられないのなら入れる意味がないというのが基本的考え方になっているという。