石原加受子氏の著書は何冊か読んだことがある。内容はわかりやすいものが多かったのだが、この本に書かれていることは理解が難しかった。
よくある上司と部下のやりとりなど、わかりやすい場面設定をしながらその時の心理状況を説明しているのに、頭にするする入ってこない。
難解な先端科学知識ならともかく、日々の心理状況のことである。それが頭に入らないということは、そもそも私の脳の中にそういう考え方が育っていないということになるのかもしれない。
この本で著者は「心地よい距離感覚の取り方」について説明している。著者の臨床経験から、相手との距離が「近すぎる」ために起こっている問題が非常に多い。相手のことが気になって、頭の中が相手のことでいっぱいになっているのであれば、相手と心理的に近づきすぎている。問題は「その人に対してさまざまなマイナス感情を抱きながら離れられない」の一点だ。
いわゆる「ピーナッツ母娘」などはまさにこの典型だろう。母娘で同じファッション、同じ好みを分かち合い、相手と自分の心理的境界が曖昧で、相手のことをあたかも自分事のように口にする。
こんな気持ちや状況になるのは、自分で自分を満たす方法を知らないから、相手に満たしてもらおうとしてしまうためだと著者はいう。争っている不快さよりも、誰も反応してくれない孤独を恐れてしまう。自分の感情を無視して「こうしなければならない、こうしなければ相手は離れてしまうかもしれない」で動けば動くほど、相手との心理的「距離感覚」は近すぎてしまう。
心地よい心理的距離感覚を保つには、自分が「どんな気持ちか」に焦点をあてて、できるだけ相手が気持ちよく聞けるように表現すること。自分と相手の責任の違いを明らかにすること。相手の責任を自分で肩代わりせず、自分の責任を果たすこと。そういったことが必要だと著者は主張する。具体的には次のステップだ。
①相手との具体的やりとりをピックアップ
②その中から「私の不快なパターン」を特定
③相手に言いやすい事柄を一つだけ選ぶ
④責め口調ではなく穏やかに伝える