コーヒータイム

日々読んだ本の感想。時々日常。

リスクは金なり (黒木亮著)

長く国際金融分野で仕事をし、現在は作家としてその分野での小説を書いている著者の味わい深いエッセイ集。

第二章「世界で仕事をするということ」の「サバイバル交渉術世界標準八ヶ条」が特にすばらしい。「交渉の八割がたは、自分にほかの選択肢があるかどうかで勝敗が分かれます。」という一文に深く深くうなずいた。相手が最悪受け入れなくてもなんとかなる、と思えると強気で行ける。そうでなければこちらは弱腰になるし、相手は鋭くそれに気づく。勝負ありだ。

味わい深いのは交渉経験だけではない。著者が訪れたアフリカや中東の国、歩いた街、口にした料理や酒が、丁寧に書かれている。想像をかきたてられ、実際に行ってみたくなった。

物足りないのは、書名『リスクは金なり』の意味がよくわからなかったこと。エッセイの中に、リスクをとって融資を決める場面は何度も出てくるけれど、経験としてさらりと書いているだけで、「だからリスクはとるべき」と説教臭く結論付けているわけではない。なのに書名では「リスクは金なり」と言い切っているのはしっくりこなかった。

 

(2018/03/05  追記)

久々に読み返してみる。

『リスクは金なり』という書名は相変わらずしっくりこないが、内容が旅行記、学生時代、仕事経験、日本の現状、などさまざまなので、書名だけでひとくくりにすること自体無理があるのだろうと思えた。

久々に読んで目を引いたのは、著者が国際金融マン時代の仕事を一言で述べた部分だ。

リスクの匂いを嗅ぎ分け、そのままでは取れないリスクを取れるリスクに仕立てる (to make unbankables bankable) 仕事である。

「そのままでは取れないリスクを取れるリスクに仕立てる」。この一文にはっとした。銀行単体で引き受けられなければ融資団を形成する。回収不能リスクが高ければ抵当権を設定したり保険をかけたりする。発展途上国が先進国に比べてリスクが高いのは承知の上だ。その上で「取れるリスクの範囲内」におさめるべく、戦略を練ることで利益確保できる、と、著者は国際金融時代の経験から述べている。

私はリスクをできるだけ減らすためにあらゆる努力をしなければならない、という思いこみのもとで行動することがよくある。だが発想を変えれば、「取ることができるリスク」であれば利益確保できるのだから、無理して減らすことはない。そう思えることは目から鱗の思いだ。

この本の記述に出会えたことに感謝。自分が正しいと思いこんでいたのとは違うものの見方に出会えること、それが腹落ちして自分のものになってくれることが、読書の醍醐味だ。