コーヒータイム -Learning Optimism-

本を読むということは、これまで自分のなかになかったものを取りこみ、育ててゆくこと。多読乱読、英語書や中国語書もときどき。

厳選ウイスキー&シングルモルト手帖(世界文化社)

ウイスキーを飲む機会が増えてきている。たいていは水割り。最初は鼻に抜ける香りが苦手だったが、水割りにするとそれが抑えられ、芳醇な味わいを楽しめるようになった。これまではジョニーウォーカーオールドパーなど定番銘柄を飲むことが多かったが、機会があれば他も試したいと思い、この本を選んだ。気になる銘柄をいくつかメモしておく。

 

【竹鶴】

日本/北海道余市宮城県仙台

ジャパニーズウイスキーの父とされる竹鶴政孝の名前を冠したウイスキー。北海道・余市蒸留所生まれの余市モルトと、仙台・宮城峡蒸留所生まれの宮城峡モルトをヴァッティングさせている、人気の高い一品。

 

スプリングバンク

スコットランド/キャンベルタウン

シングルモルトの香水と称される甘くかぐわしい香りと、キャンベルタウンモルト独特の潮と海の雰囲気まとう一品。華やかな香りは女性をエスコートする時に最適とか。

 

【ストラスアイラ】

スコットランド/スペイサイド

シーバスリーガルのキー・モルト。昔から変わらず使っている湧水には、ケルトの妖精が棲みつき、やわらかな風味をもたらしているとも言い伝えられている。熟したリンゴや洋梨のようなアロマと、チョコレートケーキのフレーバーが楽しめる一品。

ビジネスは30秒で話せ! 短く、魅力的に伝えるプレゼンの技術 (ケビン・キャロル/ボブ・エリオット著)

この一冊は前回読んだ「伝わる化」とは違い、正真正銘プレゼンのためのノウハウ本だ。タイトル通り、短く、印象に残るプレゼンをするために心がけるべきことをまとめている。

ビジネスの世界ではコミュニケーション下手は成功しない。理由は簡単。自分の言いたいことを相手に伝えられなければ代わりに誰かがやってしまうから。反対にコミュニケーション上手はいい印象をもたれ、周囲から話を聞いてもらえるようになり、影響力が上がる。

この本ではコミュニケーションを妨げるトップ10を紹介しているので、私のコミュニケーションを自己チェックしてみた。

 

⒈ 自分が何を伝えたいのかを頭の中で明確に理解していないのに話し始める。

      →心当たりあり。とにかく話さなければと思ったり、自分の考えを整理するために話したりする時。だいたい言っていることが混乱している。

⒉ ダイヤモンド・モデルを使わずに話す。

      →この本で紹介されたモデル。これまでは知らなかったのだから当然使っていないけれど、素晴らしく使い勝手が良さそう。

⒊ 聞き手にとって何がメリットなのかをはっきりと示さない。

      →聞き手が勝手にメリットを判断してくれるはずと、はっきり言わないことが結構ある。反省。

⒋ 長々としゃべりすぎたり、本題からズレたことを話す。

      →これはあまりない。(と、自分では思う) ただし自分では本題からズレていないと思い込んでいる場合はあるかもしれない。

⒌ 業界用語や専門用語を使いすぎる。

      →しょっちゅう。これも反省。

⒍ アイコンタクトをあまり、または全然取らない。

      →最初はとるよう心がけるが、話しているうちにおろそかになっているかもしれない。動画があれば確認できるだろう。今度撮ってみよう。自分の下手なプレゼンに打ちのめされるかもしれないが。

⒎ エネルギーなくボソボソと話したり、単調に話す。

      →普段はしっかり話すが、眠かったり体調悪かったりするとこうなることはある。

⒏ 顔の表情があまりない。

      →どうだろう?  これも動画で要チェック。

⒐ 早口で話しすぎる。

      →どちらかといえばゆっくり話すのでこれは大丈夫。

⒑ たとえ話や個人的な体験など話をイキイキさせる工夫がない。

      →これは要改善。まじめな話に終始することが多いが、退屈かもしれない。

伝わる化-コミュニケーションを制する者がビジネスを征す (大塚寿、姥谷芳昭共著)

この本はタイトルから伝え方のノウハウ本かと思ったが、それだけではなかった。「伝わる」ことについての現状やその原因、「伝わる」ためにはどのような手が打てるか、著者らの考えをまとめた一冊だ。

「伝わらない」という状況がどんどん増えているが、パソコンやメール、ソーシャルメディアの普及で、実際に声を出して話す機会、また上司や同僚の声を聞いて話し方を学ぶ機会が減り、会話の経験が不足しがちであることが原因だと著者らは訴える。

これは確かにその通りだと思う。オフィスはすっかり静かになった。時々違うオフィスに行き、そこがにぎやかであること、皆楽しそうに話していることに驚く。そこでの会話を聞いていると自然に今の状況がわかり、話し手のトーンでその人自身の意見もなんとなくつかめる。

「伝わる」ためには、声を出す環境を整えることが大切だと著者らは説く。たとえばメールをするのではなく電話をする、喫煙室でのコミュニケーションに加わる、紙の掲示板を復活させてその前で社員同士が話すきっかけを作る、など、とにかく「話す」ことが大切だ。にぎやかなオフィスなどは理想的だろう。

戦略的ストーリー思考入門 (生方正也著)

筋道立てて説明しなさい、という言葉をよく聞く。これまで自分なりに工夫して分かりやすく説明してきたつもりだが、実はまだまだ工夫の余地がある、と教えてくれた一冊。

著者によれば、ストーリー思考とは「身近な題材や経験をストーリーの構成に落としこみ、自分の考えを相手に伝え実現に向けて進めていくための技術」だ。ここでポイントとなるのは「伝えること」「実現に向けて進めること」。

「伝えること」はまさに分かりやすい説明に求められるものだ。ストーリーといえば小説や映画を思い浮かべてしまうが、自己紹介、商品紹介、提案書、計画書、およそ筋道立てて説明しなさいと言われることすべてに使える。一方「実現に向けて進めること」だが、他人からのサポートを受けるために、他の人が考えたり行動に移したりできる「余地」が必要だと著者はいう。そうした「余地」を与えるのがストーリーだ。

この本ではストーリーについて九つの原則を紹介している。いずれも、小説、映画などで、また日々の会話の中で、一度は触れることがあったはずで、無意識のうちにすでに使っている原則もあるはずだが、改めて原則として見せられればなるほどと思う。

私の場合、原則2「はじまりとおしまいを意識する」、原則4「逆算思考」、原則5「成果物を組み立てる思考」、原則6「難所想定の思考」を特に意識した方が良さそうだ。伝えたいことを決め、それが受け手の印象にぴたりと重なるような「おしまい」を決め、そこから「はじまり」をどうするか考える、という作業は、やり方がわかるとなかなか楽しい。

かのハリー・ポッターシリーズも、J•K•ローリング氏が最初に書き上げたのは、実は、一番最後の章だったという。全七巻のシリーズが完結するまで、この最終章は厳重に金庫に保管され、ローリング氏以外誰も内容を知られないようにしたという。これこそまさに「おしまい」からストーリーを組み上げていった、すばらしい例だ。

 

(2018/04/05 追記)

読み返してみれば、ほかのことにも気づく。

  原則4「逆算思考」

  原則5「成果物を組み立てる思考」

  原則6「難所想定の思考」

これらは本書では「これからストーリー」を組み立てるための思考原則だが、ビジネスでとても役立つ「シナリオ・プランニング」の考え方にも通じ、さらにはなじみのない仕事に取りくむときの思考方法にも使える。

 

数年前私は、これまであまり経験したことがない業務に突然放りこまれた。

その時私がどうしたか。

まずどんなものを成果物として完成させればいいのか、常識を総動員して想像した(例えば、ある品物を調達するのならば発注書を作らなければならないだろう)。次に、その成果物にどんな内容があればいいか、これまた常識を総動員して考えた(発注書ならばしっかりした仕様がなければならない)。

ほしい成果物とその内容が分かれば話は速い。【逆算思考】【成果物を組み立てる思考】の出番だ。経験豊富な人をみつけ、自分が詳しくないことを素直に認めたうえでとにかく質問をぶつける。最初は的外れであっても、徐々に成果物を組み立てるためにやるべきことがはっきりしてくる。時には自分なりに草案をつくり、批評してもらうのもいい。そのうち批評されたり注意されたりすることが多い場所が見えてくる。【難所想定の思考】である。

こうすることで、私は自分がこれからするべき「これからストーリー」ならぬ「これから行動シナリオ」をつくりあげた。あとは行動するだけ。もちろん壁にぶつかれば修正しながら。とても大変だったが、またとない経験だった。なによりなじみのない領域でもそれなりに仕事を組み立てられる自信がついた。

 

欲望の美術史 (宮下規久朗著)

美術について新聞に連載されていたエッセイをまとめた一冊。美術を生み出すとき、求めるときのさまざまな欲望に光をあてている。西洋で静物画に食べものが多く見られるのは、食糧が乏しかった時代にそれを見て満足感を得るためでもあったとか、博覧会に落選した画家がお金をとって絵を展示したのが世界初の個展であったとか、なんとも微笑ましく人間臭いエピソードが多く紹介されている。

この本を読んでいると、芸術家とは自分の心の赴くままに創作し、金などという俗物には興味をもたないものだというイメージがだんだんかすれていく。著者に言わせると、孤高の芸術家もいただろうが、彼らの作品はほとんど残らないのだ。

ひとり飲み飯 肴かな (久住昌之著)

夜に飲み会があるから…というわけでもないけれど、深夜の飯テロドラマ「孤独のグルメ」の原作者が、好きなお酒のアテや締めをひたすら語る一冊を読んだ。松重豊の声でナレーションが入ると想像するとなお面白い。

手を変え、品を変え、時には酔った勢いでテンション高く、時にはひとりボケツッコミを交え、時にはとんかつ定食をフランス料理のフルコースにたとえるなど想像力豊かに、酒と肴についてひたすらつづる。読んでいると、下戸にもかかわらず、湯豆腐で純米酒を一杯行きたくなる。本を読んで気分が盛り上がったおかげで(?)夜の飲み会はとても楽しめた。

【おすすめ】選ばれるプロフェッショナル -クライアントが本当に求めていること (J.N.シース、A.ソーベル著)

 

選ばれるプロフェッショナル ― クライアントが本当に求めていること

選ばれるプロフェッショナル ― クライアントが本当に求めていること

 

 

タイトルに一目惚れした本。

クライアントをもつ弁護士、会計士、経営アドバイザーなどのような人々が、どのようにしてクライアントと長期間にわたる信頼関係ーー専門知識やスキルをお金で買うだけではない関係ーーを築くか、名だたる企業の経営層へのインタビューを通して見えてきたことを、プロフェッショナルに必要な七つの特質にまとめ、トップレベルの仕事をしてきた人々の言葉とともに紹介している。

 

七つの特質のうち最初にくるのは「無私と自立」。いきなりたゆまぬ努力と鍛錬を必要とするものがきた。

すぐれたプロフェッショナルはクライアントの問題解決を献身的にサポートすると著者はいう。だがそれはクライアントの言うことに従うわけではない。クライアントの問題を我がごとのように考えながら、常に冷静さを保ち、客観的な立場に立つということだ。クライアントはプロフェッショナルが「適切な質問をし」「深いだけでなく幅広い知識を提供し」「一方的に話すだけでなく、こちらの話にも耳を傾け」てくれることを望んでいるのだから。

……私はこれまでこういうことができる人に会ったことはない、残念ながら。それだけ得難いのだろう。

次に来る特質は「共感力」「学習」。これもまた言うは易し行うは難しだ。

これができる人は身のまわりにそこそこいるのではないかと思う。ただし学習とは専門知識の掘り下げではなくディープジェネラリスト、すなわち専門知識の核がありながら幅広い知識をもつことを指す。これができる人はぐっと少なくなる。

4番目は「統合(Synthesis)」となっているが、この言葉は私にはピンとこなかった。これは「統合」という日本語より、オックスフォードオンライン英英辞典の"Synthesis: The combination of components or elements to form a connected whole."という定義の方がピンとくる。(意味としては「断片を組み合わせて、互いに結びついたひとつの全体像をつくること」というのが近いかな) 

鍵となるのは"connected whole"ーー寄せ集めではなく、互いに結びついたひとつのものであること。イメージとしてはジグソーパズルだろうか。ピースをつなげていくと、ある絵が見えてくる。この絵が全体像で、個々のピースはその絵を構成している一部だけれど、それだけではなんの絵やらわからない。ピースを組み合わせて絵を描いて見せるのが、プロフェッショナルというわけだ。ただしこの絵ーー基盤は、最初からそこにあるわけではなく、プロフェッショナルが目的意識をもって選ぶ必要がある。

……これができる人は、私の身近にまったくいないとは言わないが、きわめて少ない。片手で足りるほどか。

「決断力」「信念」そして「誠実さ」。これらを説明するために、著者が引用したあるプロフェッショナルの言葉がすべてだ。

「自分がどんな決断をしようと安心して生きていくためには、どんな結果になろうとも自身が正しいと思える決断をしなければならない、ということに気づきました。私の価値観は私が判断するときの物差しであり、私の信念を支えるものになっています」

 

こういう自己啓発本を選ぶとき、私は日本国内の著書だけではなく、海外著書もよく選ぶ。

日本でもクライアントとの信頼関係を築くことを強調するビジネス書は数多くあるけれど、基本的にクライアントとプロフェッショナルが「同じ日本に生まれ、同じ文化背景をもつ」ことを前提にしているので、こうすれば信頼関係を築くことができると説明するとき、具体例を数多く並べることをあまりしない傾向があると思う。読者もまた日本に生まれ、日本の文化になじむゆえに、長々と説明しなくても、身近で見聞きしたことを思い浮かべて納得してくれる。

これに対して海外では「同じ文化背景をもつ」という前提が成り立たない。国籍、文化、価値観、宗教、あらゆることが違う相手が本を手に取ることを考えて、その人達が読んで納得するように、理屈だけではなく、実例やインタビューをふんだんに盛りこみ、「これらの具体例があるからこういうことが考えられる」という書き方になる。その分読み応えがあって面白い。

 

(2018/04/06 追記)

プロフェッショナルに求められることが、私にできているかどうか、自問自答した。具体的には次の部分だ。

優れたアドバイザーは、経済的にも、知性的にも、精神的にも、完全に自立しているという姿勢を示す。だが、この自立することと無私とのバランスをとっている。彼らはひたむきで、忠実で、自分の問題ではなく、クライアントの重要課題に注力する。

自問自答の結果は、「できているかどうか以前に、そうしたいと思えた相手には、これまで二人しか会ったことがない」だった。

二人はそれぞれ別々のプロジェクトチームで一緒になったが、彼らのためになにができるのか、求められずともいつも考えた。なぜそうしたかといえば、彼らの人間性に惚れこんだとしか答えられない。二人とも正直で、公正で、自分がどんなことに責任をもつのかはっきり自覚し、難題にぶつかってもあきらめず常に前向きだった。

優れたプロフェッショナルの優秀な部分を引き出せるクライアントがいるのだと思う。プロフェッショナルとクライアントとは相互信頼で結びつけられるのだ。