コーヒータイム -Learning Optimism-

本を読むということは、これまで自分のなかになかったものを取りこみ、育ててゆくこと。多読乱読、英語書や中国語書もときどき。

【おすすめ】『モチベーション革命 稼ぐために働きなくない世代の解体書』(尾原和啓著)を読んだ

 

 

この本を読んで、なぜ私が出世などの動機付けに興味がわかず、自分が楽しそう、面白そう、意味があると思うことに頑張って取組むのか、その理由がわかった。

この本では心理学者マーティン・セリグマンの説を紹介している。人間の欲望は「達成・快楽・意味合い・良好な人間関係・没頭」の5つから成り立つというものだ。このうち上の世代、いわゆる高度成長期やバブル前の好景気を経験した世代のモチベーションは前半2つに極端に偏り、一方若い世代のモチベーションは後半3つに集中している。

私も後半3つにモチベーションの源がある。車だ家だ宝石だにはとんと興味がわかない。上司から難しい課題を提示されて「これを達成しなさい」と言われただけではやる気があまり出ず、なぜそれをやるのか分かって初めて興味を持つ。仕事ではなぜやるのか納得できないことはなるべく回避するし、たとえやっても、人並みに出来るだけで、良い出来にはならないことが多い。

一方、興味がわいたものや経験にはぽんとお金を出す。ちなみに一番お金をかけているのは旅行だ。自分が好きで一生懸命やって、それがプロジェクトの役に立つととてもうれしい。好きなひとたちと週末をすごすと素直にうれしい。一緒に好きなところに旅行に行けると最高だ。没頭への欲望は浅いほうだが、これは逆説的に、自分が没頭するとまわりが見えなくなりすぎることが分かっているから、意識的にも無意識的にも、自分で自分にブレーキをかけているのだと感じる。

こういうモチベーションの変化を著者は「モチベーション革命」と呼ぶ。著者の言葉を借りればこうだ。

「自分が頑張る意味が持てるもの」に「自分が好きな人たち」と「とことんハマる」ことを重要視する。金銭や物理的報酬とは関係なく“自分の好き”を追求する。

 AIがますます進化するこの時代、いつしか人間もAIがこなす仕事の一部に組みこまれるかもしれないというのが著者の視点だ。たとえばUber。「車を持つ人」と「車を使いたい人」をマッチングさせることでタクシー会社を通さずタクシーサービスを提供する仕組みだが、著者は「AIから見たら?」という視点を提供する。

働く人間の立場から見れば、このサービスは「人が『Uber』を介していつでもどこでもドライバーになれる」という画期的なものに映るでしょう。しかし、見方を変えるとどうでしょう。「Uber」側からすれば、ゆくゆくは車の自動運転が可能になることを見通して、AIだけで乗客を運べるようにしようと考えるはずです。その方が、人に運転させるよりコストがかからずに済むからです。...運転だけ人に外注している、ということです。

 この時代に価値を生むのは「好き」「偏愛」という一見非生産的なことだと著者はいう。AIにはないこの感情によって、自分が好きで好きでたまらなくて、世の中にも必要とされているものを見つけることができた人が成功できる。かのFacebook創始者で史上最年少のビリオネアとなったザッカーバーグ氏がいい例だ。

親世代はともすれば「好きなことだけやっても食っていけない、だから仕事で嫌なことがあっても多少は我慢しろ」などと説教したがるが、著者からすれば事実は正反対だ。私もかつてはそう思っていた。考えを変えたのは、繁忙期に過労気味になって「今やっていることは、自分の心身の健康を損なってまでやる価値のあるものだろうか?」と自問自答したことがきっかけだった。あの時そうしていなければ、今頃健康を害していたかもしれない。

今はユーザーの潜在的欲求や、購買意欲のツボである「インサイト」(新しい視点)をすくいあげる時代です。

僕がすごく好きな言葉で、任天堂の故・岩田聡元社長の「"労力の割に周りが認めてくれること"が、きっとあなたに向いていること。それが"自分の強み"を見つける分かりやすい方法だ」という名言があります。自分が楽にできてしまうことは、本人にとってあたり前すぎて価値を感じないために、なかなか気付けないものです。

この本は全編著者が語りかけてくるように書かれている。押しつけがましくなく、語りかけてくる著者の言葉がなんともいえず心地よく、しかも内容は深くうなずけるものばかりで、自分自身を見つめなおすきっかけにもなる。一読して損はない。