コーヒータイム -Learning Optimism-

18歳のわが子に読書をすすめるために、まずわたしが多読乱読しながらおすすめを探しています。英語書や中国語書もときどき。

投資を始める心構えを得るための名著〜チャールズ・エリス『敗者のゲーム』

なぜわたしはこの本を読むために時間を使うのか。

①世界の見方を根底からひっくり返す書物、

②世界の見方の解像度をあげる書物、

③好きだから読む書物

この本は①。「参加するマネジャーがすぐれているからこそ、投資運用は自分のミスによって得点を失い、他人のミスから得点をあげる敗者のゲームになってしまった」という指摘は目からウロコだった。

著者はすばらしい例を出している。航空技術が未熟だった20世紀前半には、パイロットは「冒険心旺盛で、意志も強く、視力のよい若者」であり、ベテラン戦闘機乗りたちは「勝者のゲーム」を戦っていた。しかし航空技術が成熟してきて、とくに民間航空機では「手動操作が必要になるのは離陸時と着陸時だけ」とまでいわれる現代社会では、パイロットに求められることは、一つのミスもなくマニュアル通りに飛行機を飛ばす「敗者のゲーム」に変わったのである。(たまにハドソン川水面への不時着を成功させたチェスリー・サレンバーガー機長のような「勝者のゲーム」時代のベテランパイロットがニュースを賑わせるが、例外中の例外だ)

 

本書は雑誌掲載された論文をベースにしており、短めで、すらすら読むことができる。

内容はあまりうれしいことではない。8割以上の専門運用機関は市場に負け、売買コストなどをさしひけば市場平均以下のリターンしかあげることができない、トッププロが運用する機関投資がこの成績なのだから、個人投資家の成績はさらに悪く、現実ははるかに暗い、という。

なぜなら、市場という敵があって、投資家たちーー95%の機関投資家や5%の個人投資家ーーが市場相手に戦っているのではなくて、投資家自身が市場を構成するからである。自分自身に戦いを挑んでいるようなもので、「多くの投資家が勝つ」ことができるわけはない。たとえるならば、大学入試共通試験で、過半数の生徒が平均点よりも高い点数を取るなどというバカな話がありえないのと同じだ。しかも生徒たちの実力にはそれほど差がなく、計算ミスやマークミスによって得点差が出ることのほうが多いときている。この状況を著者は「敗者のゲーム」と形容する。

TRW社の著名な科学者であるサイモン・ラモは、「勝者のゲーム」と「敗者のゲーム」の決定的な差を、『初心者のための驚異のテニス』という本の中で明確にしている。(...)両者の統計的分析の結果、ラモ博士は次のように要約している。「プロは得点を勝ち取るのに対し、アマはミスによって得点を失う」

ゆえに、十分に効率化された市場では、インデックス・ファンド(市場全体の動きを示す代表的な株価指数に連動するファンド)、それも国際的に最大限分散された、最小コストのインデックス・ファンドを選んで活用することが、勝ち続けるための最も簡単な方法なのだ、実は。

だが、市場平均株価よりも高い収益をあげたいと野心的になる投資家たちはアクティブ・ファンド(市場平均以上のリターンを目指すファンド)に投資し、「敗者のゲーム」にみずから飛びこむ。

「十分に効率化された市場」とわざわざ書いたけれど、世の中にはそうでない市場もある。閉鎖的な国家、独裁政権新興国では、政府が株式市場に強力な影響を及ぼすことがままある。このような事情を理解しているアクティブ・マネジャーならば、新興国市場で平均以上のリターンを得られるかもしれない。この本が述べているのは、あくまでアメリカのような、全世界に開かれ、効率的に運営されている市場のことである。

 

このような市場で勝つ方法はなにか。投資の名著といわれている書物が口をそろえて主張していることだが、明確な目標設定をし、目標実現のための合理的な投資政策を選択したうえで、その政策を忍耐強く貫くこと。

だが、これができないのが人間である。

本書で投資家が避けるべきリスクを列挙しているが、そのうちのいくつかは、人間ゆえの我慢の効かなさに原因がある。たとえばこう。

■忍耐力の不足……1年で10%上がる投資の1カ月ごとの平均上昇率は1%にも満たない。1日単位の上昇率はほとんどゼロに近い。したがって、毎日の株価の動きを気にしても意味がない。ところが実際には、毎日欠かさず株価をチェックする投資家は少なくない。株価などは、四半期に一度見れば十分だ。もしアマチュアの投資家で売買判断を年1回以上しているとすれば、それは多すぎる。どこかでそのツケを払うことになるだろう。

投資信託に投資する場合、10年に1回以上入れ替える……投信への投資は、デートではなく結婚だ。「富める時も、貧しい時も」ともに助け合うものだ。投信入れ替えのコストは高い。個人投資家にとっての投信へのリターン実績は、その投信自体のリターンを大幅に下回る。なぜなら一般に投資家は、好成績、すなわち基準価格の高い時に投資し、成績不振となった安値で売るからだ。相場変動に惑わされず持ち続けたら、リターンははるかに高かっただろう。

しかも。

著者いわく「真のリスクはインフレである」。

10年前なら1万円で買えたものが、いまは1万2千円出さなければ買えないなら、10年前の虎の子貯金の1万円は価値が目減りしている。著者はインフレ率と、そのインフレ率のもとで資産を半減させる年数を一覧表にしている。ぞっとしない表だ。

 インフレ率2% ----> 36年で資産半減

 インフレ率3% ----> 24年で資産半減

 インフレ率4% ----> 18年で資産半減

日本のインフレ率は1980年には7.8 %だったが、バブル崩壊後に落ちこみ、2019年には0.48%となっている。これは日本が、経済活動が比較的落ちついた国であることを意味している。
経済成長旺盛な新興国ではインフレ率はもっとすさまじい。お隣中国は、1980年にはインフレ率2.5%だったが、そこからぐんぐん上昇し、1989年には18%を記録し、2019年も推定値ながら2%台のインフレ率を維持している。みんなが「宵越しのカネをもつくらいなら不動産や株式を買う」と、投資に熱狂するのも無理はない。

こういう、日本のバブル期や新興国の経済発展期のような「買えばもうかる」時代はめったにこない。来たとしても、一般投資家が大勢参加するころには高値になり、欲が出すぎて引き際をあやまれば、大火傷はまぬがれない。バブル崩壊で自己破産した投資家はたくさんいただろう。著者の主張は、一攫千金のチャンスを夢見るのではなく、市場平均のリターンを得られることで満足する、自分が投資を通して手に入れたいものーー老後の安定した生活資金などーーをはっきりさせ、それを実現するための投資戦略をたてること、投資戦略をおいそれとは変えない心構えと覚悟をもつことだ。

投資は早ければ早いほどよい。さあ、心構えをもって始めよう。