なぜこの本を読むことにしたか
なぜわたしはこの本を読むために時間を使うのか。
①世界の見方を根底からひっくり返す書物、
②世界の見方の解像度をあげる書物、
③好きだから読む書物
この本は①。投資業界での不滅の名著とされる本。書店で平積みされているど派手な表紙の投資本(『10万円から始めて◯◯円貯める方法』みたいなやつ)の内容はほとんど『ウォール街のランダム・ウォーカー』をはじめとした古典投資書の内容を薄め、引きのばし、自己流に解釈し、スパイスとして個人的体験をまぶしたものなので、『ウォール街のランダム・ウォーカー』を読みこなればそのようなら本を買う必要がまったくなくなり、お金の節約になる。
本書の位置付け
著者は〈第十二版へのまえがき〉で、本書の初版から発している基本的メッセージには変更無いが、本書は個人投資家のための総合的な投資指南書を目指しており、新しく開発された投資商品について知識を提供するために本書を何度も改訂した、としている。
初版の中で私が発したメッセージは、「個人投資家にとっては、個々の株式を売買したり、プロのファンド・マネジャーが運用する投資信託に投資するよりも、ただインデックス・ファンドを買ってじっと持っているほうが、遥かによい結果を生む」という単純明快なものだった。(......)それから四五年以上がたった今、私はこの考え方に一層確信を持つようになった。
本書で述べていること
著者が本書を「個人投資家のための総合的な投資指南書」と呼ぶように、株式投資の歴史、代表的な株式投資方法(ファンダメンタル分析とテクニカル分析など)、各種投資商品、資産管理で考慮すべきこと、投資家のライフサイクルに応じた資産構成及び投資戦略(年齢や状況によって、取れるリスク、資金が必要になるまでの年数がまったく異なる)など、いわゆる「全部盛り」になっている。読者は興味のある箇所から読むことができる。最新の投資商品ではビットコインまでカバーしているため非常に参考になる。
ビットコインを支えるブロックチェーン技術は、確かに国際的な決済システムに大きな変革をもたらすだろう。また、資産の一部を匿名性と流動性の高い仮想通貨で保有するメリットも大きいだろう。しかし、「投機バブルはかなりの期間持続するかもしれないが、やがて破綻して大部分の参加者は身を亡ぼす」という歴史の教訓は、ここでも当てはまる。バブルの根底にしっかりしたテクノロジーがあるのは事実だとしても、そのことが投資家の資産の安全性を保証することにはならないのだ。
投資商品はアメリカで利用出来るものを考慮しているから、日本の投資家には購入しづらいもの、社会制度そのものが違うからそのまま適用出来ないもの(年金制度や免税制度など)もあるのが難点か。
ちなみに参考として、第12章「財産の健康管理のための一〇カ条」の目次を一部引用する。
感想いろいろ
『ウォール街のランダム・ウォーカー』が発する「インデックス・ファンドを持つ」というアドバイスに従う個人投資家は、それほど多くないように思える。ある株式が順調に値上がりしているとみるや個人投資家が群がり、自分が高値で買っても誰かがより高値で買い取ってくれるだろうという〈砂上の楼閣理論〉(または「最後のバカ理論」)が猛威をふるうためだ。多少冷静な人々は〈ファンダメンタル価値理論〉に基づいてその株式の本質価値を評価しようとするが、どちらにしろ、インデックス・ファンドで満足しようとしないのは両者同じである。
『ウォール街のランダム・ウォーカー』はこれらの人々も読者に取りこむ。メッセージは初版から変わらないし、ところどころで投資市場の歴史から学べることに基づいて警告を発してもいるものの、無理に個人投資家を説得しようとはしていない。投資指南書として、これまで株式投資市場がたどった歴史、ビットコインやブロックチェーンまで含んださまざまな金融商品を、最新の投資理論や研究成果もわかりやすく説明している。
「Make your choice. ーー選択は君次第だ」という、映画〈SAW〉シリーズの決め台詞が聞こえてくるようだ。(その言葉をかけられた映画の登場人物がたいていひどい目にあうところまで同じだったりして?)
歴史から得られる教訓は明白だ。その時の市場の投資スタイルや流行のはやりすたりが、株価形成に大きな影響を及ぼすということである。株式市場の動きは、時には砂上の楼閣理論とうまく合致することがある。それだからこそ、投資というゲームはこの上なく危険なのである。
どちらかというと、わたしの印象に残ったのは、ウォール街の住人たちがカネもうけのために考え出したあらゆるやり方がまさしく「もうければ官軍」を地で行っていることだ。企業はさまざまな手段で利益と成長率を高く見せ、証券会社のアナリストは巨額の引受手数料目当てである株式を買い推奨し、一般投資家は推奨銘柄や証券を中身も知らずに買いまくる。市場参加者は欲にまみれた人間にすぎないのだ。カネが人の判断能力を奪い、狂乱させる様がそのままウォール街の歴史であり、著者はそれを繰り返し読者に見せつけているにすぎないような気がしてくる。
短期の株価予想はできない、という話をするときに、著者はあるラジオミステリーを紹介したけれど、わたしも似たような短編小説を読んだことがある。うろ覚えだがこんなストーリー。
ある貧しい若者が「事前に宝くじの当選番号がわかれば大金持ちになって親孝行できるのに」と願った。すると不思議な力が働き、2日後の夕刊紙が彼のもとに配達された。若者は大喜びで宝くじ当選欄を穴が空くほど読み、一等前後賞の番号を買った。2日後、若者は当選した宝くじを手に、意気揚々と実家に向かった。しかし彼を待っていたのは父親が死んだというニュースだった。勤務先の工場でその日起きた爆発事故に巻き込まれたのだ。爆発事故の記事も夕刊紙にあったのに、記事に気づけば父親がその日出勤しないよう止められたのに、彼は宝くじの当選番号ばかり気にしていたせいで読み落としたのだ。若者は大金持ちになり、母親に豪邸を買い与えることができたが、父親亡きあと、母親はもはや「自分自身が生きているのか死んでいるのかすら関心がない」状態になってしまったーー。
短編小説は「神が人を罰するときは、クソ見事なやり方をするものだ!」という言葉で結ばれる。
カネは天下の回りものというけれど、わたしはもう若くないし、子どももいるから、一攫千金を夢見て無茶な投資をするようなリスクのとり方はもうできない。
わたしが投資を始めるのは、定年を迎えてから、子どもや親戚に頼らずとも生きていけるだけの老後資金を確保するため。70歳頃まではちょっとした海外旅行だって楽しみたい。
この前提を忘れないように、今後の投資戦略を考えるのがわたしにとって大切だ。著者も、まるまる一章割いて、ライフステージごとの投資戦略について考え方を説明している。
個人が投資を行う上で最も重要な意思決定は、人生の各ステージに応じて、株式、債券、不動産、マネーマーケット商品などの「アセット・ミックス」をいかにバランスのとれたものにするかという決定であろう。(......)投資の総リターンの九〇%は、投資家の選択したアセット・ミックスによって決まるという。投資の成功度合いのわずか一〇%弱が、選択された資産の中身、例えば具体的にどの銘柄や投資信託を選ぶかに依存するにすぎない。
これまで投資をあまりやったことのない初心者投資家として、わたしがやることは単純だ。
- 確定拠出年金とつみたてNISAを買う。
- 老後資金を計算し、足りなければ、税法上有利な方法で金融商品を追加購入する(インデックス、ETF、REIT)。
- 持家購入を検討する。
- 子どもの教育資金を確保する。
ここまでやって、余剰資金があれば、ちょっとくらい個別株式銘柄に投資するのも悪くない。本書によれば個別銘柄に投資するのはカジノで遊ぶようなもので、未来予測は不可能に等しいから、もうけるためというより、手数料と税金に気をつけつつ、株式銘柄を選ぶ楽しみ、好みの産業分野がどう発展してゆくのかを観察する楽しみを得るため。
リターンの決定要因だけ参考までに。
株式投資のリターンの三大決定要因は、①投資した時点の配当利回り、②一株当たり利益の成長率、③株価収益率(ないしは株価配当倍率)の水準の変化である。また債券投資に関しては、①投資した時点で計算された最終利回り、②金利(利回り)の変化、そして満期まで保有しない場合には債券の市場価格の変化、であったことを思い出してほしい。
投資における古典的名著をあわせて読みたい。たとえば「投資可能な資金の需給バランスや投資意欲がどうなっているのか、身の回りにつねに注意を向けよ」と主張する『投資で一番大切な20の教え』や、「プロは得点を勝ち取るのに対し、アマはミスによって得点を失う」とする『敗者のゲーム』など。
『ウォール街のランダム・ウォーカー』の中では、古典的名著『証券分析』にしばしば触れ、市場が一時熱に浮かれて特定株式に信じられないような高値をつけたからといって、これまでの評価基準が間違っていただの、金融資産価格に関するファンダメンタル価値が当てにならないだのと安易に結論付けてはならないと戒めている。