コーヒータイム -Learning Optimism-

本を読むということは、これまで自分のなかになかったものを取りこみ、育ててゆくこと。多読乱読、英語書や中国語書もときどき。

【おすすめ】バリュー投資家の必読書〜ベンジャミン・グレアム《証券分析》

 

なぜこの本を読むことにしたか

なぜわたしはこの本を読むために時間を使うのか。

①世界の見方を根底からひっくり返す書物、

②世界の見方の解像度をあげる書物、

③好きだから読む書物

 

本書の位置付け

本書が世に出る前は、株式は機関投資家に投機的とみなされており、系統的に分析することはむずかしいというのが一般的考え方であった。本書により株式分析の手法が系統化され、しだいに株式投資が一般化していった。まさに画期的な古典的名著といえる。ウォーレン・バフェット氏は、グレアム氏に師事しており、今日にいたるまで本書の教えをほぼ忠実に守ってバリュー投資家のキャリアを築いてきたといえる。

 

本書で述べていること

株式という切り口でいえば、本書はまさに株式に対する分析のはしりであり、1929年の株価暴落とそれにつづく不況のさなかに世に出たゆえに、証券分析は本当に意味のある作業なのか、ということ自体をことあるごとに検討し、限界があるとことわったうえで、さまざまな証券分析手法を検討している。

分析とは、入手可能な事実を詳細に検討し、確立された原則と有効な論理に従ってそこからある種の結論を引き出すことと定義される。(……)しかし、証券分野でそうした分析を適用しようとすれば、投資というものが本来的には厳密な科学ではないことによる多くの困難に直面する。

債券をふくめた証券全体に対してですらこれである。普通株についてはさらに「普通株の分析とはどれほど有効で価値のある作業なのか。普通株の投資は企業の将来と株式市場におカネを賭けるという不確実ではあるが、そうせずにはいられない行動なのではないか」と、あからさまに疑問視している。

とはいえそれでは話が進まないので、著者らは一応回答を用意している。まとめるとこうなるだろうか。

  • 証券分析は投機的性格をもつ普通株についてはあまり意味がない(ただし人間はなんだかんだと自分の行動に理屈をつけたがるものなので、その意味ではまあ無駄ではないかもしれない)。一部の、投資対象にふさわしい普通株については明確で科学的価値がある。
  • 証券分析の目的は、決算報告書やバランスシート、賃借対照表などに記載された重要事実をわかりやすく説明し、必要あれば批判することで、その証券を買うか保持するか売るかを選択出来るようにすることである。証券自体のファンダメンタル価値は厳密にわかるものではないが、要はお買い得かどうかがなんとなくわかればよい。

そうことわったうえで、本書はさまざまな分析方法、注目点(減価償却費など)、その裏付けとなる考え方を説明する。それでもことあるごとに、企業の将来性などというものは投機対象であり分析対象にはしない、と切り捨てることは忘れない。

 

感想いろいろ

株式分析対象にはなり得ないが、実際に株価に大きく影響する「将来性」という予測不可能のナニカが、株式投資のときに避けられないリスクになる。本書はこの一見あたりまえながら忘れがちになることを「分析対象から外す」ことで際立たせている。

しかし、この本が書かれてから100年近くたつ今でさえ、企業の将来性への期待が株価に織りこまれることはもはやあたりまえになってしまった。ある企業が新製品開発プロジェクトを立ち上げたと発表すると、まだ新製品ができあがったわけでもないのに株価が上がる。このリスクと折りあうためにも「妥当な価格」というものの評価は不可欠である。

われわれの投資を目的とした普通株の論理とウォール街の論理には大きな違いがある。ウォール街では優良株のPERが16倍をかなり上回っていても十分に正当化されるばかりでなく、そうした銘柄は株価とは無関係に「投資適格」と見なされている。これに対するわれわれの論理によれば、「最高の優良株」であってもそれなりの高値をつければそれを正当化する将来の高収益が不可欠であり、その意味からすればそうした銘柄を購入するのは本質的に投機的な行為である。

わたしがもっとも気に入ったのは、普通株投資を保険会社業務にたとえているところ。非常にわかりやすい。

普通株の投資原則は保険会社のアプローチにかなり似ているという結論にたどり着く。(......)

個別のケースでは支払保険金が受取保険料をかなり上回ることもあるだろうが、保険事業全体として見るとちゃんと利益は出ているのである。同様に普通株の投資でもその会社の業績を詳しく調査して個別の銘柄のリスクを全体の利益でカバーすれば、保険会社と同じように利益を上げることができるだろう。そして保険会社にも数量的な基準では測れない道徳的なリスクが存在するように、普通株の投資でもその企業の将来の見通しについては慎重に判断すると同時に、個別銘柄における予想外のリスクを平均化するためにも分散投資を心掛けるべきであろう。

保険会社がやっているのは、まさに「将来起こりうることを予測して保険対象や保険料を決めること」である。生命保険は年齢別死亡確率を、車両保険は交通事故発生確率を参考にしなければならないだろう。こうした統計情報はすべて過去のデータに基づくものであり、保険会社はそれを個別被保険者の将来予測に使用する。「30代、持病無し、家系にがん患者有り」といった個人情報をもとに、この人に売る保険を決めるわけだ。たまには予測が外れて高額な保険料を支払うことになるかもしれないが、全体的にもうかればよい。株式も同じである。