コーヒータイム -Learning Optimism-

本を読むということは、これまで自分のなかになかったものを取りこみ、育ててゆくこと。多読乱読、英語書や中国語書もときどき。

<英語読書チャレンジ 21-22 / 365> Freeman Publications “Covered Calls for Beginners” / “Credit Spread Options for Beginners”

英語の本365冊読破にチャレンジ。ページ数は最低100頁程度、ジャンルはなんでもOK、最後まできちんと読み通すのがルール。期限は2025年3月20日
オプション投資入門書を2冊一気読み。いずれも未邦訳。タイトルはそれぞれ『初心者のためのカバード・コール』『初心者のためのクレジットスプレッド・オプション』。基本的に私はオプション取引はやらないのだが、勉強のために読むことにした。

みずほ証券用語解説によれば、カバード・コール(Covered Call)の意味は以下の通り。

原資産を買いポジションで保有しながら、同時にその原資産のコール・オプションを売りポジションで持つ戦略である。

コール・オプションを売る際にプレミアムを手に入れることができる。ただし、原資産が一定の価格以上まで上がっても、得られる利益は限定される。将来の値上がり益を放棄する代わりに、現時点で追加的な利益を得たい場合に用いられる戦略である。

そもそもオプションとはなんぞやという話について、本書はおもしろいエピソードを紹介している。古代ギリシャの哲学者であるミレトスのタレスは、気象学に造詣深く、オリーブが豊作になる年を予測していた。彼は街中回ってオリーブオイルを生産するための搾油機の使用権を買い(オプション)、オリーブの収穫時期(期日)にオリーブオイル業者たちに使用権を売りつけた(オプションを売買できる)。売買差額分(プレミアム)がタレスのもうけになり、金持ちになった彼は好きなだけ哲学に集中できるようになったという。

「原資産を買いポジションで保有しながら、同時にその原資産のコール・オプションを売りポジションで持つ戦略」とは、すなわち原資産(たとえば株式)を保有しながら「その株式をある期日前にある権利行使価格で買う権利」(コール・オプション)を別の投資家に売ること。たとえば権利行使価格が1,000円だとすれば、株式価格が1,000円以上になり、さらに株価上昇が見込めれば、コール・オプションの買い手は権利行使するであろう。売り手は1,000円の株価売却益とコール・オプションを売った代金(プレミアム)を手にすることができるが、その後株式がたとえ2,000円になろうとも、株価上昇分の利益を得ることはできない。すなわち、将来得られるかもしれない利益を一部手放すかわりに、確実にプレミアム分のもうけを得る戦略だ。

本書ではうまく権利行使価格を設定してカバード・コールを繰返し売ることで「キャピタルゲイン(原資産売却による利益)だけではなくキャッシュフローを得られる」と強調している。かのウォーレン・バフェットもオプションを取引しているというのが以下の記事。

Case Study - Warren Buffett Writing Put Options To Obtain A Lower Stock Purchase Price - The Options Manual

ただしもちろん売れるかどうかの問題があるほか、株価下落時の含み損にはなんら対応できない、逆に株価上昇時の売却益は限定される、というのがカバード・コールなので、「この株は将来急騰することはないだろう」と考えた銘柄についてプレミアムを多少稼げればラッキーと考えたほうがよさそう。また、本気で長期保有を考えている株式にはカバード・コールをかけるべきではない(思いがけない株価上昇に見舞われて手放すことになるかもしれない)。結局のところ変動が小さい、長期保有でなくてもいい株式にかけるのがいちばんうまいやり方なのだろうと思う。

本書の最終章は、面白いことに、詐欺師の見分け方についてである。取引履歴 (audited records) を開示させる、シャープレシオ (Sharpe Ratio) について質問する、投資商品販売許可を開示させる、許可証が有効かどうかをオンラインで確認する(専用サイトまである)など、多種多様なやり方が用意されており、アメリカ政府がこの手の詐欺師に頭を悩ませてきたのがよくわかる。ちなみに有名なオー・ヘンリーの短編小説をはじめ、アメリ近代文学には金融詐欺師や山師がわんさか登場する。かなり身近なのだろう。

Ask and Check | FINRA.org

 

本書でとりあげるのはスプレッド取引の一種であるクレジット・スプレッド。基本的にはオプションをセット買いする、いわゆる「動きがない」相場で利益をあげる取引方法である。クレジット・スプレッドは数十種類あるけれど、本書ではもっとも基本的な3種類を中心に説明している。

たとえばある期日までにある株式を権利行使価格10,000円で購入する権利(コール・オプション)を売り、代金(プレミアム)100円を手にする。同時に、同期日のコール・オプションを10,000円よりも高い権利行使価格で買い、プレミアムを支払う。手にした100円と支払ったプレミアムの差額、すなわち受取額が大利となり、権利行使価格差から受取額を引いた金額が最大損失となる。

このように受け取りになるものがクレジット・スプレッド(ちなみに支払いとなるものはデビット・スプレッド)。クレジット・スプレッドでは株価予測は必要ないし、カバード・コールで必要とされていた最低100株の株式保有さえ必須ではない。リスクと利益は確定しており、株式売買のように売りたい時に売れず損失拡大することもない、というのが著者の説明。変動が小さい相場で利益を得る方法であるため、逆にいえば、変動が大きい相場ではリスクが高まる。このため、市場のオプション価格から逆算される変動率(インプライド・ボラティリティ (Implied Volatility、IV) )が高いオプションには手を出すべきではない。

本書ではクレジット・スプレッドのほかに、オプション取引業者の選び方、高頻度取引 (High Frequency Trading。証券取引所から株式売買情報を買い、個別株式買付注文があればそれにーーミリ秒単位でーー先回りして株式買付し、利益を上乗せして売るなど、さまざまな方法がある)など機関投資家の取引方法、さらには「空腹のとき、怒っているとき、孤独感があるとき、疲れているとき、酒やドラッグをやっているときは絶対取引してはいけません」といった注意事項など、いろいろな話題に触れているのが楽しい。