コーヒータイム -Learning Optimism-

本を読むということは、これまで自分のなかになかったものを取りこみ、育ててゆくこと。多読乱読、英語書や中国語書もときどき。

抱腹絶倒のロシアエッセイ〜米原万里『ロシアは今日も荒れ模様』

幼少時代をチェコスロバキアソビエト大使館付属学校で学び、長じてベテランロシア語通訳となった著者は、母語である日本語と同じくらい流暢にロシア語を操り、エッセイで描き出されるロシアのエピソードはまさに抱腹絶倒ながら暖かい視線を感じさせる。

ロシア人といえば大のウォトカ(ウォッカ)好きだが、第一章「酒を飲むにもほどがある」では、これでもかとウォトカ関連のエピソードが語られる。アルコール度数40のウォトカが一番美味いことを発見したのがかの大化学者メンデレーエフであるとか、エリツィンが酔っ払って川に落ちたことを部下が回顧録で暴露したとか、張本人のエリツィンは日本訪問時に泥酔しながら地域特色のあるウォトカの開発に苦労した思い出を披露したとか、微笑ましいエピソードから、ロシア人が「血管にウォトカが流れている」とまでいわれるほどウォトカをソウルドリンクと思っていることが心底納得できる。

そうかと思えば、ソ連崩壊前後、不穏な空気が街をおおっていたころのことを、タクシードライバー、映画監督、文学者、炭鉱夫など、さまざまな人の口から語らせている章がある。著者の本業は通訳であって歴史家ではないし、インタビューされる側も政治家ではないから、彼らの言葉は素朴で、彼らの目から見たソ連崩壊前夜のできごとは、ひとつひとつが日常の延長線上でありながら、穏やかならざる黒雲が地平線の上にわきあがりつつあることをひしひしと感じさせて、じつに見事。ソ連崩壊前後、食料品店の棚がカラッポでも暴動が起きなかったのは、一億五千万総兼業農家とばかりに家庭菜園に精を出していたから、という裏話もてんこもり。

最後に超実用的な「ロシア人との交渉術」までついてくる本書、読んで損はない。ひまつぶしにも、ロシアとロシア人に興味があって調べるためにも、ビジネスでの交渉術の参考にも、ぜひどうぞ。