コーヒータイム -Learning Optimism-

本を読むということは、これまで自分のなかになかったものを取りこみ、育ててゆくこと。多読乱読、英語書や中国語書もときどき。

資産形成を始めるにあたって〜日本証券業協会『NISA概論』

NISA (Nippon Individual Savings Account) =少額投資非課税制度は、イギリスのISA (Individual Savings Account) 制度を模範としている。上場株式・公募株式投資信託等への一定額の投資から得られる配当金や譲渡益(すなわち株式や信託を売却したときの利益)が一定期間非課税となる制度で、「一般NISA」「つみたてNISA」「ジュニアNISA」の3種類がある。

NISAのメリットデメリット、投資する金融商品の選び方は、金融庁をはじめ、NISAを販売する金融機関や証券会社のWebサイト、さらには個人投資家のブログやYouTubeチャンネルなどでさんざん解説されているが、本書はそのようなことにはほとんど触れていない。日本証券業協会の立場から、NISAを支持する立場をとりながら、なぜNISAという制度を日本でも取り入れたのか、どのような制度なのか、どのように推進されたのか、を説明する、いわばNISAの歴史書である。

どんな公的制度でも、そもそもその制度を設計した目的がなにかは超重要だが、日本政府がNISAという制度を設計した目的ははっきりしている。

この2つがメイン。「少額」投資非課税制度として設計したのは、少額からスタートできれば心理的ハードルが低くなり、これまで投資に興味をもたなかった人々にもすすめられるためである。実際、本書によれば2018年12月末時点で一般NISA口座数に占める20歳代から40歳代の割合は3割、つみたてNISAは7割である(とはいえ実際に買い付けをしている口座は一般NISAで約7割、つみたてNISAで約5割だから、口座を開くだけ開いててほうっておいている人も少なくないことになる)。たしかにYouTubeでNISA解説動画をあげている人々の年齢層は低めで、本業を別に持ち、副業としてNISA投資をしている人が多いことからも、この目的はそこそこ果たされている。

NISAの制度解説そのものは、金融庁や金融機関、証券会社が提供している以上のものはないけれど、2013年度にNISA制度、2018年度につみたてNISA制度が創設されてから、どんな制度更新があったのかは面白く読んだ。具体的には、投資可能期間延長、口座開設手続きをシンプルにすること、開設にかかる時間を短縮すること、「居住者」を対象とするゆえに海外駐在する人々にとっては使い勝手が悪かったところを改善するなど、NISA制度を使いやすくするための工夫の数々である。

本書をざっと読むと、NISAの政策の中における位置づけや、移り変わり、今後目指すべき方向(とくに期間制限の撤退)がわかって興味深い。NISA初心者にはあまりやさしいとはいえないが、NISAの基礎知識がひととおり身についたところで、知識の整理として読むにはうってつけの本だ。