コーヒータイム -Learning Optimism-

本を読むということは、これまで自分のなかになかったものを取りこみ、育ててゆくこと。多読乱読、英語書や中国語書もときどき。

過去を知り、現在を読み解く〜国際金融史研究会『金融の世界現代史』

700ページ近くある分厚い本で、読み通せるのか不安だったけれど、いざ読み始めたら「めちゃ面白いんだけど!?」と、するする読めた。

内容はタイトルそのままで、金融機関や金融活動の現代史を国家別に紹介している。各国の金融制度の成り立ちをみていくと、その国の金融活動がなぜいまのような形になったのか、ヒントとなる知識が沢山得られてワクワクする。中国の章の分量が少なすぎる(アメリカの半分程度)のが多少不満だけれど、中国はネット金融とシャドーバンキングが複雑怪奇すぎて、正規の銀行制度からはとても金融活動の全体像を読み解けないのだから仕方ないところ。

以下、面白いと思った金融制度現代史についてのメモと感想。

 

アメリカ】

政府による経済活動規制(いわゆる「大きな政府」)に反対する精神をもつアメリカでは、建国当初、日本でいう日本銀行にあたる単一中央銀行を設けていなかったのが面白い。まだビジネス規模が小さかったころは、州をまたいだ手形決済にはニューヨークにある専用の手形交換所を使用したり、商業銀行同士が連携したりして、資金をまわすことができたためだ。

しかし後に、全国規模で資金受給関係を調整し、破綻時には銀行に資金を貸付する中央銀行の必要性が認められて、連邦準備銀行が設立された。現在は連邦準備銀行をはじめ、各州にちらばる4000以上もの商業銀行(2019年時点)、その後、貯蓄金融機関、信用組合、さらには手形引受業務や債券発行業務などから身を起こしてきた投資銀行が、アメリカの複雑な銀行システムを構成している。

とはいえ21世紀では実質6大メガバンクグループ(バンク・オブ・アメリカシティグループJPモルガン・チェースウェルズ・ファーゴゴールドマン・サックスモルガン・スタンレー)が経済に多大な影響を及ぼしているのは、やはり、時代の要請というものかもしれない。

 

【イギリス】

第一次世界大戦前、ポンドは国際通貨であったが、1960年台の度重なる対ドル切り下げによりその地位を失った。

1980年前後まで、イングランド銀行法を除けば銀行を定義・規制する法律が存在しなかったり、証券取引に関する公的な規制の根拠となる法律が存在せず、証券取引所などが定める規則等の自主規制にとどまっていたのは、いかにも慣習法に従うイギリスらしい。EU加入や外国資本の増加、金融危機を経て、さすがのイギリスも銀行規制を整備しはじめ、今日に至る。

 

【中国】

日中戦争中は日本占領区、国民政府統治区、共産党抗日解放区でそれぞれ発券銀行がもうけられていたが、日中戦争中からつづく戦時インフレーション(軍事費増加を通貨増発によってまかなったため)に国民政府が対応できず、共産党に政権をゆずってから人民元に統一されたという歴史をもつ。

このころから、インフレーションをおさえるため、財政収支の統一的管理、いわゆる「モノバンク」により中央・地方財政双方の支出・収入を中央政府が統一的に管理する「統収統支」方式が制度化され、現在までつづいている。

しかし、モノバンクシステムは、中国経済が対外的に閉じていた計画経済時代から、1980年代の改革開放時代にうつるにつれて限界が見え始めた。中央政府は間接管理、貸付枠規制緩和によってこれに対応しようとしたが、マネーサプライの伸びによるインフレ圧力がかかり、80年代末を頂点とする民主化運動の背景となった。ようするに国民政府と同じく経済政策の失敗であやうく足元をすくわれそうになったわけだが、90年代の経済発展でもちなおす。

2008年の金融危機以後、シャドーバンキング(通常の金融システム外の金融仲介)が盛んになり、主に2つの形式の融資が行われた。

  1. 地方政府が融資プラットフォームと呼ばれるノンバンク企業を設立した上で、地方政府が管轄下におく土地や不動産からの収益を担保とした貸付を銀行からひき出すやり方。しかし土地価格が上昇することを前提としているためバブルを起こしやすく、また過剰投資により債務危機に陥る地方政府がでてきた。
  2. 理財商品という一般投資家向けの資産運用商品を売り出すやり方。信託会社が投融資先の債券や貸出債権を小口化したもので、元本保証がなされていないことから銀行にとっては簿外取引になる(もちろん元本保証をうたう理財商品もある)。高金利で多くの一般市民を惹きつけたが、デフォルト事例も頻発し、中央政府は管理策を打ち出そうとしている。

こうしてみると、中央政府による強力な金融管理があるために問題が表面化していないけれど、地方政府の債務問題、債券化商品の過剰な人気は、けっこうリスクではないかと思わなくもない。