コーヒータイム

日々読んだ本の感想。時々日常。

「戦略的ストーリー思考入門」(生方正也著)を読んだ

筋道立てて説明しなさい、という言葉をよく聞く。これまで自分なりに工夫して分かりやすく説明してきたつもりだが、実はまだまだ工夫の余地がある、と教えてくれた一冊。

著者によれば、ストーリー思考とは「身近な題材や経験をストーリーの構成に落としこみ、自分の考えを相手に伝え実現に向けて進めていくための技術」だ。ここでポイントとなるのは「伝えること」「実現に向けて進めること」。

「伝えること」はまさに分かりやすい説明に求められるものだ。ストーリーといえば小説や映画を思い浮かべてしまうが、自己紹介、商品紹介、提案書、計画書、およそ筋道立てて説明しなさいと言われることすべてに使える。一方「実現に向けて進めること」だが、他人からのサポートを受けるために、他の人が考えたり行動に移したりできる「余地」が必要だと著者はいう。そうした「余地」を与えるのがストーリーだ。

この本ではストーリーについて九つの原則を紹介している。いずれも、小説、映画などで、また日々の会話の中で、一度は触れることがあったはずで、無意識のうちにすでに使っている原則もあるはずだが、改めて原則として見せられればなるほどと思う。

私の場合、原則2「はじまりとおしまいを意識する」、原則4「逆算思考」、原則5「成果物を組み立てる思考」、原則6「難所想定の思考」を特に意識した方が良さそうだ。伝えたいことを決め、それが受け手の印象にぴたりと重なるような「おしまい」を決め、そこから「はじまり」をどうするか考える、という作業は、やり方がわかるとなかなか楽しい。

かのハリー・ポッターシリーズも、J•K•ローリング氏が最初に書き上げたのは、実は、一番最後の章だったという。全七巻のシリーズが完結するまで、この最終章は厳重に金庫に保管され、ローリング氏以外誰も内容を知られないようにしたという。これこそまさに「おしまい」からストーリーを組み上げていった、すばらしい例だ。

 

「欲望の美術史」(宮下規久朗著)を読んだ

美術について新聞に連載されていたエッセイをまとめた一冊。美術を生み出すとき、求めるときのさまざまな欲望に光をあてている。西洋で静物画に食べものが多く見られるのは、食糧が乏しかった時代にそれを見て満足感を得るためでもあったとか、博覧会に落選した画家がお金をとって絵を展示したのが世界初の個展であったとか、なんとも微笑ましく人間臭いエピソードが多く紹介されている。

この本を読んでいると、芸術家とは自分の心の赴くままに創作し、金などという俗物には興味をもたないものだというイメージがだんだんかすれていく。著者に言わせると、孤高の芸術家もいただろうが、彼らの作品はほとんど残らないのだ。

「ひとり飲み飯 肴かな」(久住昌之著)を読んだ

夜に飲み会があるから…というわけでもないけれど、深夜の飯テロドラマ「孤独のグルメ」の原作者が、好きなお酒のアテや締めをひたすら語る一冊を読んだ。松重豊の声でナレーションが入ると想像するとなお面白い。

手を変え、品を変え、時には酔った勢いでテンション高く、時にはひとりボケツッコミを交え、時にはとんかつ定食をフランス料理のフルコースにたとえるなど想像力豊かに、酒と肴についてひたすらつづる。読んでいると、下戸にもかかわらず、湯豆腐で純米酒を一杯行きたくなる。本を読んで気分が盛り上がったおかげで(?)夜の飲み会はとても楽しめた。

「選ばれるプロフェッショナル -クライアントが本当に求めていること」(J.N.シース、A.ソーベル著)を読んだ

タイトルに一目惚れした本。

クライアントをもつ弁護士、会計士、経営アドバイザーなどのような人々が、どのようにしてクライアントと長期間にわたる信頼関係ーー専門知識やスキルをお金で買うだけではない関係ーーを築くか、名だたる企業の経営層へのインタビューを通して見えてきたことを、プロフェッショナルに必要な七つの特質にまとめ、トップレベルの仕事をしてきた人々の言葉とともに紹介している。

 

七つの特質のうち最初にくるのは「無私と自立」。いきなりたゆまぬ努力と鍛錬を必要とするものがきた。

すぐれたプロフェッショナルはクライアントの問題解決を献身的にサポートすると著者はいう。だがそれはクライアントの言うことに従うわけではない。クライアントの問題を我がごとのように考えながら、常に冷静さを保ち、客観的な立場に立つということだ。クライアントはプロフェッショナルが「適切な質問をし」「深いだけでなく幅広い知識を提供し」「一方的に話すだけでなく、こちらの話にも耳を傾け」てくれることを望んでいるのだから。

……私はこれまでこういうことができる人に会ったことはない、残念ながら。それだけ得難いのだろう。

次に来る特質は「共感力」「学習」。これもまた言うは易し行うは難しだ。

これができる人は身のまわりにそこそこいるのではないかと思う。ただし学習とは専門知識の掘り下げではなくディープジェネラリスト、すなわち専門知識の核がありながら幅広い知識をもつことを指す。これができる人はぐっと少なくなる。

4番目は「統合(Synthesis)」となっているが、この言葉は私にはピンとこなかった。これは「統合」という日本語より、オックスフォードオンライン英英辞典の"Synthesis: The combination of components or elements to form a connected whole."という定義の方がピンとくる。(意味としては「断片を組み合わせて、互いに結びついたひとつの全体像をつくること」というのが近いかな) 

鍵となるのは"connected whole"ーー寄せ集めではなく、互いに結びついたひとつのものであること。イメージとしてはジグソーパズルだろうか。ピースをつなげていくと、ある絵が見えてくる。この絵が全体像で、個々のピースはその絵を構成している一部だけれど、それだけではなんの絵やらわからない。ピースを組み合わせて絵を描いて見せるのが、プロフェッショナルというわけだ。ただしこの絵ーー基盤は、最初からそこにあるわけではなく、プロフェッショナルが目的意識をもって選ぶ必要がある。

……これができる人は、私の身近にまったくいないとは言わないが、きわめて少ない。片手で足りるほどか。

「決断力」「信念」そして「誠実さ」。これらを説明するために、著者が引用したあるプロフェッショナルの言葉がすべてだ。「自分がどんな決断をしようと安心して生きていくためには、どんな結果になろうとも自身が正しいと思える決断をしなければならない、ということに気づきました。私の価値観は私が判断するときの物差しであり、私の信念を支えるものになっています」。

 

こういう自己啓発本を選ぶとき、私は日本国内の著書だけではなく、海外著書もよく選ぶ。

日本でもクライアントとの信頼関係を築くことを強調するビジネス書は数多くあるけれど、基本的にクライアントとプロフェッショナルが「同じ日本に生まれ、同じ文化背景をもつ」ことを前提にしているので、こうすれば信頼関係を築くことができると説明するとき、具体例を数多く並べることをあまりしない傾向があると思う。読者もまた日本に生まれ、日本の文化になじむゆえに、長々と説明しなくても、身近で見聞きしたことを思い浮かべて納得してくれる。

これに対して海外では「同じ文化背景をもつ」という前提が成り立たない。国籍、文化、価値観、宗教、あらゆることが違う相手が本を手に取ることを考えて、その人達が読んで納得するように、理屈だけではなく、実例やインタビューをふんだんに盛りこみ、「これらの具体例があるからこういうことが考えられる」という書き方になる。その分読み応えがあって面白い。

 

「あのお店はなぜ消耗戦を抜け出せたのか 〜ネット時代の老舗に学ぶ「戦わないマーケティング」〜」(仲山進也著)を読んだ

いい本だな、と、読んだあとふうっとため息をついた。

この本では楽天市場で10年以上継続しているネットショップをとりあげ、何故値下げ競争などの消耗戦を抜け出して長く生き残ることができたのか、どうやって取り組んだのか、さまざまな実例とともに紹介している。それらを読んでいると、こういうネットショップがあったら私も行ってみたいな、と思うようになると同時に、ネットショップの店主の人好きなところ、信念のあるところ、楽しみながら商売しているところを見るようでほのぼのする。

著者はネットショップを「究極の自動販売機」「究極の対面販売」の2つに分けている。「究極の自動販売機」は低価格、送料無料、スケールメリットなどで便利さの価値を追求するスタイルで大企業向きだけれど、店主の顔が見えてこないビジネスライクな取引だ。「究極の対面販売」は接客コミュニケーションなど楽しさを追求するスタイル。オーナーシップがあり小回りがきく中小企業に向く。

生き残っているネットショップは一言でいえば「究極の対面販売」だ。さまざまな取り組み、例えば園芸品販売ならばイベントの企画やネットショップで買った苗の成長日記をブログに書き止める、などを楽しんで行う。お客さんひとりひとりの顔を見ることができた上で、そのお客さんに楽しんでもらったり、自社信念に共感してもらったりする。

売り上げが上がるけれど、それは目的でなくて結果だ。お店の信念に共感してくれる人、自社製品のおかげで人生がちょっぴり豊かになった人が、コミュニティとして集まり、楽しんでくれることこそが、長く生き残るための秘訣だ。

「マラソンランナーが強くなる食事」(岡田あき子著)を読んだ

練習、休息に加え、忘れられがちなのが食事。だが身体が食べたものでできている以上、食事こそもっと重視すべきだと著者はいう。

身体の材料としてはタンパク質、カルシウム、ビタミン群。私はよくおかずだけでご飯を食べなかったり、生野菜で一食済ませたりするが、著者によるとこれは筋肉疲労回復を遅めるのでNG。また私は朝一番に空腹状態で走ることが多いが、著者によると空腹での練習は集中力が低下する、持久力が続かない、筋肉が落ちる原因になるなどのことがありこれもNG。素人考えではNGだらけ。

レース前の食事では、著者のやり方はレース3日前まではごはん6割程度の通常食で、レース3日前からはごはん7割程度の高糖質食。当日は朝食をレース4時間前までに食べ、レース中はガス欠防止に15/25/35 km時点を目安にエネルギージェル、水は30分程度ごとに、と、リズムをつけて摂取している。またレース後は免疫力が落ちて風邪引きやすくなっているので、アフターケアも万全。そうして身体をいたわり、フルマラソンという過酷なレースを走る身体を維持するそうだ。

「限界集落株式会社」(黒野伸一著)を読んだ

新しい試み。難しい実用書を読むときに、内容に関わりがある小説を一緒に読むとうまく頭に入るかもしれないと思いついたので、コーポレートファイナンスの本と一緒にこの「限界集落株式会社」を読んでみた。

やってみると結構いい。実用書を読みつづけると疲れてきて内容が頭に入らなくなるが、小説を少し読むと気分転換になるし、小説の中の展開が、ファイナンスの視点から見るとどういう意味があるのか考えてみることで、今読んだばかりの知識を使う練習にもなる。

この小説自体は地域活性エンターテイメントだ。起業のためにIT企業を辞職した主人公の多岐川優が、のんびりしたいと思い、BMWに乗って、亡くなった祖父の家があるど田舎の小さな集落に立ち寄るところから物語は始まる。最初は本当に立ち寄るだけのつもりだったのが、人口3桁を割り、行政からも見捨てられつつある集落を存続させ、発展させていくために、優は力を注ぐことになる。六本木で億ションを所有するほど稼いでいた優が、バスさえ通っていない寒村で地元発展のための事業を起こす。当然価値観がまったく違うのでぶつかりあいの繰り返しだが、しだいに村人たちも優を受け入れるようになる。

優がやったことには適材適所、効率化、宣伝、マーケティングと、経営の教科書に載りそうなことがふんだんに詰めこまれ、しかも現実にも応用できそうなことばかりだ。例えば産地直送を売りにして採れたて野菜をレストランに売りこんだり、ゆるキャラをデザインして集落の日常をつづりネット上で人気を集めたりと、なるほどこういう手があるか!  と発見していくのがとても面白い。文庫本一冊分だけではもったいないと思う。個人的には麓の町の内情ももっと書いてほしかった。