コーヒータイム -Learning Optimism-

本を読むということは、これまで自分のなかになかったものを取りこみ、育ててゆくこと。多読乱読、英語書や中国語書もときどき。

<英語読書チャレンジ 52-54 / 365> 趣味で読む国際防火基準 (International Fire Code、IFC) / NFPA 10 / NFPA 30

英語の本365冊読破にチャレンジ。原則としてページ数は最低50頁程度(減らしました)、ジャンルはなんでもOK、最後まできちんと読み通すのがルール。期限は2027年10月。20,000単語以上(現地大卒程度)の語彙獲得と文章力獲得をめざします。

今回は『キャプテン・ソルティの消防隊のための賢者の書』を読んだときに趣味で調べた海外消防事情や、アメリカの消防関連基準であるNFPA  (National Fire Protection Association、全米防火協会) Codesの続き。本ではないけれど、100頁を余裕で越えるものばかりなので読破した英語本の数にカウントする。

<英語読書チャレンジ 39-40 / 365> B.Gaskey “ Captain Sally’s Book of Fire Service Wisdom” - コーヒータイム -Learning Optimism-

 

いわゆる日本の消防法にあたるものはアメリカ連邦法にはなく、州ごとに権限が委ねられている。州が作成する法律は、民間機関による基準や規格に基づいている。広く採用されている基準として、国際建築基準(International Building Code、IBC)と国際防火基準(International Fire Code、IFC)があり、これらは国際基準評議会 (International Code Counsil, ICC) が作成している。

前回のブログ記事でこの部分を書いたときに「民間機関が作成した基準を立法機関がそのまま参照するとはなんぞ???」という疑問が残ったので、どうしてこうなったのか調べてみた。

19世紀の終わりごろ、それまで伝統的に地方自治体が防火基準を管轄してきたアメリカにおいて、防火基準統一に対する要求が強まり、民間機関がさまざまな地方自治体のコンセンサスに基づいた防火基準を設定する作業をはじめた。この頃防火工学 (Fire Protection Engineering) が伝統的分野である土木、機械、化学工学などからしだいに分離し、独立分野として扱われるようになった。鶏が先か卵が先かはいえないが、アメリカ連邦全体で使用できる防火基準の設定と、防火についての知識の体系化は、おたがいがおたがいに影響されるものであっただろう。

やがて民間機関がコンセンサスのとれた防火基準を制定し、州政府がおのおのの実情を考えつつ防火基準を州法にとりいれて法的拘束力を与え、今日にいたる。主なものは国際建築基準 (International Building Code、IBC) と国際防火基準 (International Fire Code、IFC) 。いずれもオンラインで全文無料公開されている。なお防火規定についての内容はほぼ共通らしい。

 

国際防火基準 (International Fire Code、IFC)

Digital Codes

アメリカでは42州が、消防関連州法の根幹としてIFCを州毎のFire Codeに組み込んでいる (たとえばカリフォルニアなら "California Fire Code") 。ちなみにフロリダ州ハワイ州などIFCを採用していない州は代わりにNFPA1 Fire Codeを参照している。

IFCは7部構成。第1部冒頭第1条が [A] 101.1 Title. These regulations shall be known as the Fire Code of [NAME OF JURISDICTION], hereinafter referred to as "this code". と、管轄権を有する者の名称を入れられるようになっており、立法機関が法令化しやすい構成。Severability =分離可能性条項(一つの条項が法律違反などにより無効とされても、ほかの条項の有効性に影響を与えるものではないという規定)があり、一部適用もできる。しかし、条文自体の改正はICC担当委員会に諮らなければならない。

内容としては、消防設備の設置要件や基本的仕様を与えるもの。おおむね①床面積や敷地面積、②想定利用者数、③建物高度により設置要件を分けている。このあたりの考え方は日常生活でもよく見かける。

第5章で消火栓配置、第9章でそれ以外の消火設備について規定しているのがちょっとややこしいが、第5章は主に消防隊についてとりあげた章でおり、消火栓も「消防隊が使うもの」として同じ章に書かれたのかもしれない。肝心要の「どれだけの消防用水量 (Fire Flow) を想定しなければならないか(もちろんこれにより消火栓の必要基数、配置、容量が影響を受ける)は、残念なことにIFCには書かれず、詳細についてはほかの規格を参照すべしとしている。ある意味これがIFCの特徴といえる。

 

NFPA Codes & Standards

NFPAシリーズ全体にいえることだが、しつこく "Authority Having Jurisdiction" すなわち「管轄当局」という表現がでてくる。NFPAシリーズのそもそもの成り立ちが自治体ごとにバラバラだった防火基準の最大公約数的な規格を提供することにあったから「最終的な決定権は管轄当局にありますよ」というのが基本スタンス。つまり正当な理由があれば、管轄当局がNFPA以上にきびしい防火基準を求めるのは問題ない。柔軟性があるといえば聞こえはいいが、担当者によって判断が甘くなったり厳しくなったりしないか不安なところではある。

もうひとつ重要なのは "Code" と "Standard" の違い。ざっくりいえば "Code" は「なにをつける」、"Standard" は「どうつける」について定めており、"Code" の方が上位。NFPAシリーズは300以上規格があるけれど9割程度はStandard。

個人的にはシリーズ本文だけではなく、前文にある改訂履歴も読むとなおのこと楽しめる。「米国化学事故調査委員会 (CSB:Chemical Safety and Hazard Investigation Board) の要請で◯◯を追加した」というような文章がでてくることがあり、実際の事故事例から明らかになったことが反映されていることを実感できる。

この記事では以下を読んだ。

  • NFPA 10: 消火器 (Standard for Portable Fire Extinguishers)
  • NFPA 30: 可燃性液体 (Flammable and Combustibel Liquids Code)

 

NFPA 10: 消火器 (Standard for Portable Fire Extinguishers)

いわゆるバケツリレー方式による消火活動は紀元前には存在しており、人力ポンプで水をかけることができる消火器の原型のような設備も早くから実用化されていた。しかし、水ではなく金属筒に消火剤(当時は炭酸カリウムを使用した)を充填した消火器ができたのは19世紀初め。現在市販されている消火器は、粉末薬剤、強化液、機械泡、二酸化炭素などを充填している。

本基準は消火器を必要とする施設において「最低限の要求 (minimum requirement) 」を与えるもの。実際には消火器は各種試験に合格しなければならない。(たとえば日本であれば、日本消防検定協会の検定に合格しなければならない)面白いのは4.4項で廃止をうたわれている消火器で、「1955年以前製造の消火器 (Any extinguisher manufactured prior to 1955) 」とあり、逆に1956年以降ならOKなの!?と驚き。それ以外にもさまざまなタイプの消火器が廃止となっており、いろいろなタイプが開発されてはよりすぐれたタイプにとって代わられるさまが想像できる。

また、消火器設置基準にもお国柄がでている。たとえばNFPA 10は消火器を床に直置きすることを禁じているが、日本ではありふれた光景である。たかが消火器、されど消火器だ。

 

NFPA 30: 可燃性液体 (Flammable and Combustibel Liquids Code)

液体可燃物ーーむかし「燃える水」と呼ばれた原油、ガソリンや灯油などの燃料、ペンキなどの揮発性液体、料理に使われるさまざまな食用油などーーが火災を引き起こすことはめずらしくない。

NFPA 30はそういう可燃性液体 (Flammable and Combustibel Liquids) の貯蔵、取扱、使用についての規定。

  • 液体貯蔵量を一定以下に抑える
  • 漏洩時にはダイクなどで封じこめる
  • 着火源となりうる電気製品などを制限する
  • 適切な消防設備を設置する

こういったことを柱に、さまざまな規制をかけており、とくに電気品には防爆仕様にするなどきびしい制限を設けている。

しかし可燃性液体の引火点を①華氏73F (摂氏22.8℃) / ②華氏100F (摂氏37.8℃) / ③華氏140F (摂氏60℃) / ④華氏200F (摂氏93℃) の4つにカテゴリ分けしているのがよくわからん。キリがいいからかな?