コーヒータイム -Learning Optimism-

本を読むということは、これまで自分のなかになかったものを取りこみ、育ててゆくこと。多読乱読、英語書や中国語書もときどき。

<英語読書チャレンジ 39-40 / 365> B.Gaskey “ Captain Sally’s Book of Fire Service Wisdom”

英語の本365冊読破にチャレンジ。原則としてページ数は最低100頁程度、ジャンルはなんでもOK、最後まできちんと読み通すのがルール。期限は2025年3月20日

本書は未邦訳(だと思う)。タイトルは直訳すると『キャプテン・ソルティの消防隊のための賢者の書〜消防士試験を突破し、初期キャリアを最大限生かすための実践ガイド〜』(長い!)

著者は消防士は古い男社会で、家族に消防士がいる屈強な男でさえ溶けこむのに苦労することを率直に認め、この本はそんな新米消防士とその予備軍たちに、自分たちが入ることになる世界の現状を包み隠さず示すことが目的であると述べる。

過激な言葉や、男女差をはっきり表す言葉ーーたとえば消防士を "firefighter" ではなく "fireman" と呼ぶなどーーを使うことがあるが、それこそが消防士の世界で現実的に使用されている言葉である。著者は皮肉をこめて、政治的動向とか感情を害されたなどの理由で(消防士の世界は)変化することはないだろうと述べている。わざとらしいもってまわった言い回しながら、女性や有色人種の割合を何%にするべきだの、LGBTを差別してはならないだの、そういう政治的傾向を一蹴している。

But we should all be more concerned about having the right people for a specific job, rather than the one that has the correct amount of melanin in their skin or uses a different bathroom than other members of a crew.

特定の仕事には、肌にメラニン色素が適切量含まれるとか、ほかのメンバーと違うトイレを使うとか、そういう者ではなく、その仕事にふさわしい人間が就くようにわれわれは気を配るべきだ。

内容としては意外に昭和的。新人は早めにきて消防器具を点検しろ、キッチンに汚れた食器があれば洗え、絶対嘘をついたりごまかしたりするな、小さなことから信頼を積み重ねなければ生命を預けあうこともある消防隊員の仲間になることはできない、ということが平易な英語表現で書かれている。この辺は昔読んだノンフィクション『9月11日の英雄たち』にでてくる情景そのままでやはりなかなか伝統的な世界なのだ。

 

あわせて読みたい

この機会にアメリカの消防関連基準であるNFPA  (National Fire Protection Association、全米防火協会) Codesも読んでみた。本ではないけれど、100頁を余裕で越えるものばかりなので読破した英語本の数にカウントする。

いわゆる日本の消防法にあたるものはアメリカ連邦法にはなく、州ごとに権限が委ねられている。州が作成する法律は、民間機関による基準や規格に基づいている。広く採用されている基準として、国際建築基準(International Building Code、IBC)と国際防火基準(International Fire Code、IFC)があり、これらは国際基準評議会 (International Code Counsil, ICC) が作成している。また、労働安全に係る防火安全規制については、米国連邦規則に労働安全衛生規則(29CFR Part1910 Occupational Safety and Health Standards、OSHA 規則)がある。

州の防火安全規制にしろ、連邦規則の労働安全衛生規則にしろ、消防用機器の基本的な基準を定めるのみである。詳細仕様を与える規格のひとつがNFPA Codesであり、ほかには保険業者安全試験所(Underwriters’ Laboratories、UL)規格、工場主相互保険(Factory Mutual、FM)規格など。

ICCシリーズとNFPAシリーズはいわゆる「合意に基づいて (consensus based) 」作成される規格であり、業界団体や有識者から広く意見を取り入れて更新するというアメリカ特有のやり方で管理されている。それ自体に法的拘束力はなく、どのように適用されなければならないかは州法規次第。内容、適用範囲、更新手続などでちがうためしばしばややこしい事態を引き起こす。
ICC and NFPA Codes and Standards: A Basic Guide

 

NFPA 1 Fire Code

この規格が定められた目的は、火災、爆発やほかの有害状況から人命や資産、公共財を守ること。さまざまな施設における消防設備や避難施設などの検査・試験、事故 (incidents) 調査、設備計画検討、訓練、許可 (permission) が必要になるものなど、人命保護 (life safety) や財産安全 (property safety) かかわる事項全てについて包括的に定めている。

歴史的経緯でいえば、この規格はもともと別組織により作成され、のちに全米防火協会に移管された。NFPAシリーズの基盤と位置付けられ、ほかのNFPA Codeにある重要条項はすべて引用や参照、ときどき補足、というかたちでまとめられているため、本文だけでも数百頁というとんでもない分量。人命・財産保護を語る際に知るべきテーマが全て挙げられているといえる。このNFPA 1に補足条項をつけてカスタマイズし、独自基準とすることもできる(マサチューセッツ州はそうしている)。クリスマスツリーを置いていいかどうかまで定めているのはなかなか笑える。ちなみにホテルは生木禁止らしいので作りもののクリスマスツリーになる。残念。