コーヒータイム -Learning Optimism-

本を読むということは、これまで自分のなかになかったものを取りこみ、育ててゆくこと。多読乱読、英語書や中国語書もときどき。

<英語読書チャレンジ63-65 / 365> 趣味で読む全米防火協会 (NFPA) 規格 - NFPA20 / NFPA22 / NFPA24

英語の本365冊読破にチャレンジ。原則としてページ数は最低50頁程度、ジャンルはなんでもOK、最後まできちんと読み通すのがルール。期限は2027年10月。20,000単語以上(現地大卒程度)の語彙獲得と文章力獲得をめざします。

今回は『キャプテン・ソルティの消防隊のための賢者の書』を読んだときに趣味で調べた海外消防事情や、アメリカの消防関連基準であるNFPA  (National Fire Protection Association、全米防火協会) Codesの続き。本ではないけれど、100頁を余裕で越えるものばかりなので読破した英語本の数にカウントする。

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<英語読書チャレンジ 55-56 / 365> 趣味で読む全米防火協会 (NFPA) 規格 - NFPA13 / NFPA 72 - コーヒータイム -Learning Optimism-

 

NFPA 20: 消防ポンプ (Standard for the Installation of Stationary Pumps for Fire Protection)

火災を消し止めるためにはもちろん水が必要だが、火災現場で必要な水圧、流量を得るためには、消防用水ポンプが必要になる場合がある。
消火用水ポンプの設置について定めたStandardがNFPA 20 (*1) 。ポンプの性能は必要水圧/流量により決まるが、NFPA 20では、ポンプは規定流量の150%以上を、規定圧力の65%以上で流せるものでなければならないと定めている (*2)。またポンプは電力などを消費して消火用水を昇圧するため、停電時対策についても定めている (*3,4) 。ポンプ室は防火壁で守らなければならないとか、ポンプ入口フランジから上流配管曲がり角までは配管径の10倍以上離れていなければならないとか (*5) 、プロにはあたりまえかもしれないけどなかなか面白く感じられる規定もある。
一番面白く感じるのは、「この規定の背後にはどういう物語があるのだろう?」と想像するとき。
事実上全世界で使用される設計規格ともなれば、わずかな修正であっても、機器製造費用が跳ね上がったり、これまでにない新しい製品を開発しなければならなかったりする。当然、それだけの根拠があってしかるべきであり、そこには物語がある。たとえば防火壁がなかったせいでポンプが燃えてしまって消火活動がうまくいかなかったことがあったのかもしれない。配管曲がり角とポンプ入口が近すぎてポンプがうまくはたらかないことがあったのかもしれない。物理現象は冷酷であり「お気持ち」が入る余地は一切ない。起こる現象は起こるのだ。事故事例を積み重ね、原因究明と再発防止策検討を繰り返し、いまの消防規格になっている。そう考えるとこれは過去の血と涙の教訓と、たゆまぬ探究の結晶であり、これからもどんどん改訂されていく生きた規格であるーーそういえるかもしれない。

(*1) Code / Standardのちがい。ざっくりいえば "Code" は「なにをつける」、"Standard" は「どうつける」について定めており、"Code" の方が上位。NFPAシリーズは300以上規格があるけれど9割程度はStandard。
(*2) 必要水圧/流量を決めるには、どの消火設備をどこにいくつ配置するか、つまり、どれだけの規模の火災がどれだけの範囲で発生するのかを想定する必要があるが、それは ”Standard” であるNFPA20には書かれていない。ただしNFPA 20では、ポンプの性能に「規定流量の150%以上、規定圧力の65%以上」でも運転できなければならないという制約を与え、想定よりも多くの水が必要になったとき、ポンプが対応可能になるよう、ある程度余裕をもたせている。余談だが、吐出水量が多くなると圧力は下がり、逆に少なくなると圧力は上昇する。吐出水量がゼロになるときの締切圧力(ちなみに規定流量の140%を越えてはならないとされている)、入口圧力、設置高さ、インペラ許容製作誤差(Performance tolerance、インペラの製作誤差によるヘッド上振り)などを考えあわせて、設計圧力を決める。
(*3) ポンプはある形式のエネルギー(たとえば電力など)別のエネルギー(消防用水の運動エネルギーや圧力エネルギーなど)に変換するための機械である。NFPA20では消防用水ポンプを駆動するために、電気モータ、ディーゼルエンジン、または蒸気タービンを使用することを認めている。通常時は電気モータ、停電時はディーゼルエンジン、と使い分けることが多いようだ。
(*4) 吐出水量がゼロになると、電気モータなどのエネルギーを水の運動エネルギーに変換できない(外に出ていく水の流れがない)。余剰分は熱エネルギーとなるため、水が熱くなりすぎてポンプを損傷しないよう、水抜きが必要。
(*5) 配管曲がり角で生じる流れの乱れがポンプに影響してしまうから。

 

NFPA 22: 消防用水タンク (Standard for Water Tanks for Private Fire Protection)

まるまる一章を木製の消防用水タンクに割いているけれど、そもそも木製タンクなんてまだあるか? と思ってググってみた。木製の消防用水タンクは20世紀初めにはよく使用されたが、現在ではほぼ見られないらしい。歴史の遺産を見た気分。別の章ではナイロン製消防用水タンクの設計基準も記載されている。画像をググってみたが、どう見てもウォーターベッドマットレスのおばけ。

こういう変わりものは別として、現代の消防用水タンクはたいてい鋼鉄製、コンクリート製、繊維強化プラスチック製のいずれかであろう。NFPA 22ではタンクの標準容量が与えられており(*6)、標準容量以外のタンク設置は許可が必要 (permitted)。

とはいえ消防用水であることを除けばただの水タンク。NFPA22ではタンク周辺配管についていろいろ規定があるものの、タンク本体についてはすでにある専用設計規格にゆずり、それほど紙幅を割いていない印象。消防用水タンクの水をほかの目的に使用することはあまり好ましくないが、承認があれば可能 (approved) (*7)。ただし配管は共用してはならないし、充分な消防用水量を確保できるよう取水口を高くしなければならない。そりゃそうだ。

(*6) 例えば炭素鋼タンクでは5,000ガロン、10,000ガロン、という具合で上限値500,000ガロンまでの刻み値が与えられている。親切なことに海外向け(?)にm3換算値も併記されている。

(*7) permittedはより正式な表現で「法規に基づき許可する」ニュアンス。approvedはより柔らかく「提案にOKする」意味合い。

 

NFPA 24: 消防用水配管 (Standard for the Installation of Private Fire Service Mains and Their Appurtenances)

地下に設置する消防用水配管についての規定。消火栓もここ(*8)。なお、地上配管の規定はNFPA13にある。

築数十年のマンションの水道が劣化し、高額な修繕費がかかった、というようなニュースがときどき流れる。水配管というものは長期間漏水せずに使用できることをめざして、錆、腐食、材質劣化、塗装剥離、凍結、詰まり、その他破損(*9)といったことを考えて材質を選び、メンテナンスを欠かさないようにしなければならない。消防用水配管ともなればなおさら注意が必要になる。

NFPA24は比較的短いが、配管材について定めた重要な規格である。なぜなら配管材はそのままお値段に反映されるからだ。比較してみると、たとえば2013年版までは(比較的安価だが腐食されやすい)炭素鋼が地下設置で使用可能な配管材リストにあったが、2016年版以降ではリストから消えた。2019年版には、それまでリストになかったステンレス鋼が追加された (*10, *11)

(*8) 消火栓入口配管は6インチ (150mm) 以上でなければならないと規定されている。この規定により、消火栓が接続されている消防用水主配管も6インチ以上であることを余儀なくされる。ちなみに消防用水主配管の呼び圧力は150psi (10.3 bar) 以上なければならないと規定されているが、これはどうやら経験則らしい。

(*9) 車にぶつかられるなど。地下埋設管であれば地面上を車や重機類が通ることも考慮して、埋める深さを規定されている。

(*10) 地下配管材としてはいまのところ鋳鉄 (ductile iron)、コンクリート、ポリ塩化ビニルなどのプラスチック、真鍮、銅、ステンレス鋼がみとめられている。後述のように炭素鋼は以前はOKだったがいまは使用対象外になった。

(*11) ステンレスは表面に酸化皮膜(保護膜)を形成するために錆びにくい。通常であればステンレス鋼には防錆塗装をしなくてもよいと考えられているが、NFPA24では塗装不要と明記されていないため、心配性な担当者にあたれば、防錆塗装をするよう要求されるケースがあるらしい。この辺のことをはっきり書いてほしいという要望も出ているようだ。