コーヒータイム -Learning Optimism-

本を読むということは、これまで自分のなかになかったものを取りこみ、育ててゆくこと。多読乱読、英語書や中国語書もときどき。

わたしたちは正しかったのか常に考えよう〜峰宗太郎、山中浩之『新型コロナとワクチン わたしたちは正しかったのか』

 


なぜこの本を読むことにしたか

なぜわたしはこの本を読むために時間を使うのか。

①世界の見方を根底からひっくり返す書物、

②世界の見方の解像度をあげる書物、

③好きだから読む書物

この本は②。2021年10月時点の新型コロナウイルス及び対策の現状について解説する。

 

本書の位置付け

2021年10月時点の新型コロナウイルス及びワクチン、対症療法、その他の対策(手洗い・うがい・3密回避など)の現状についての一般向け解説書。

ただ現状紹介や専門知識紹介にとどまらず「この話をするのにどのような言葉が必要で、それはどのような意味か」「なぜこのような考え/結論に至るのか」「そもそも正しい/信頼できるのはどのようなことか」という背景部分まで、基礎にたちかえり、言葉の定義にたちかえり、どこまでも基本的なことから語り起こすようにしていることが特徴。

 

本書で述べていること

専門家である峰宗太郎先生と編集者Y氏の対談方式で、主にY氏が質問し、峰先生が回答するという形ですすめる。素人の「素朴な」質問をぶつけて、専門家にやさしく解説してもらう、ということを繰返して理解を深める。

たとえばY氏が「新型コロナはかぜとどこが違う」と聞き、峰先生は、コロナは病気の原因、かぜは病気そのものだから比較するのは適切ではなく、コロナによる感染症「COVID-19」と比較するのが言葉としては適切である、というふうに前置きしたうえで、「COVID-19は免疫系の暴走による肺炎などを引き起こしやすいが、かぜ(普通感冒)ではまず起きない」などについて説明する。

本書ではY氏は「専門家を専門家たらしめる条件は、知識はもちろん、なにより『考え方』、物事の受け止め方にあるんじゃないかと思う」と述べており、峰先生は「『なぜそれは正しいと言えるのか』と立ち止まるクセをつけることができたら、その人はもう専門家への道を一歩踏み出した、くらいの意味があると思います」と返している。それを踏まえて、情報だけではなく、その情報を支える、専門家のものの考え方を読者に伝えようとしている。

 

感想いろいろ

前回読んだ『みんなで知ろう!新型コロナワクチンとHPVワクチンの大切な話』で私がもやもやしていたことをみごとに言語化してくれている一節があり、首がもげるほどうなずきながら読んだ。

── 改めて確認なんですが、「聞きたくない本当のこと」しか言わない科学の考え方は、マクロ(個別事例ではなく集合として見る)の視点であり、客観的な事実の積み重ねであり、さらに反論を許容することで、個人の主観、思い込みの影響を少しでも減らそうとしますよね。エビデンスピラミッドもそういう構造になっている。

 そう、より客観的だと考えられるものほどピラミッドの上にあることが多い。

── ということは、人間の主観に頓着しないというか、寄り添おうとしないわけだから、個人の感覚としては「冷たい」「自分の気持ちをわかってもらえない」と感じるのも、まあ無理はないってことなんですかねえ。その隙を突いてニセ科学トンデモ本が「はいはい、あなたの気持ちよくわかりますよ。新型コロナ、怖くないって話を聞きたいですよね。ワクチン、危険だから打たないほうがいいよ、と、誰かに言ってほしいですよね」と、やってくる。人間個人の考え方のクセとしてはこっちのほうがはるかに受け入れやすいから、くらっと来るのも無理はない。難しい問題だなあ。

私はどちらかというと科学好きだけれど、それでも病気になったときに「これだけしんどいのにデータや統計でものを言われても…もっと親身になってほしい」と感じてしまう気持ちは痛いほどわかる。

 

専門家としてあるべき姿勢は「わからないものについては断言をしない」「自分や他者が発信する専門知識についてつねに『これは正しいだろうか?』という健全な懐疑心をもつ」といったことがあげられているが、私が一番重要だと思ったのはこの一節。これは専門家にかぎったことではなく、私たち非専門家も気をつけなければならない。

 なかなか結論が出ないと、「早く答えが欲しい」となる。これがエビデンスを間違えて読んじゃう一番の原因です。もちろん、科学者にとってもそうなんですよ。「早く答えが知りたい」と思った瞬間に、足をすくわれるんですよね。

 

あわせて読みたい

峰先生とY氏による新型コロナウイルス関連本第一弾はぜひあわせて読みたい

峰先生は読書家で、本文中でも何冊か本のタイトルが出てくるので紹介。

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