コーヒータイム -Learning Optimism-

本を読むということは、これまで自分のなかになかったものを取りこみ、育ててゆくこと。多読乱読、英語書や中国語書もときどき。

<英語読書チャレンジ 41-42 / 365> S. Sutherland “How to Make Money in ISAs and SIPPs” & Miller “IRA: A Quick Reference Guide for 2020”

英語の本365冊読破にチャレンジ。原則としてページ数は最低100頁程度、ジャンルはなんでもOK、最後まできちんと読み通すのがルール。期限は2025年3月20日

なぜこの本を読むことにしたか

2024年よりあたらしいNISA (Nippon Individual Savings Account) 制度が始まる。金融業界で働く知人にこのことをどう思うか聞いてみたところ、こんな感想が返ってきた。

「ますます元となったイギリスのISA制度に似てきたね。イギリスでは日本のような全国民加入年金がないかわりに、こういう個人投資制度を整備してきた。日本でも年金危機が叫ばれて長いけど、いよいよ老後資金はできるだけ自分で準備しなさい、年金では支えきれないという金融庁からのシグナルかな?」

なかなか説得力がある感想である。あたらしいNISA制度の生涯非課税枠上限の1,800万円は、何年か前によくいわれた「老後資金は2,000万円必要」にも近い。その分の税収をあきらめるかわりに、年金受給開始年齢を後ろ倒しにするとか年金額を減らすとかして支出を縮小する。超高齢化&少子化社会の日本にありそうな話ではないか。

こういう会話があってから、収支のライフプランを作成したり、あたらしいNISAや企業型DC (Defined Contribution)、iDeCo (個人型確定拠出年金制度の英語表記(Individual Defined Contribution Plan)の略) などの制度について学んだりしているが、その一環として、先行するイギリスやアメリカではどのように制度運用されているのか知るべく本を読んだ。

 

本書の位置付け

今回読んだ2冊のうち、"How to Make Money in ISAs and SIPPs" がイギリスの制度解説であり、"IRA: A Quick Reference Guide for 2020" がアメリカの制度解説である。どちらも初心者向けのやさしい内容。"How to ~" の方は独学で投資を続けてきた個人投資家が書いてきた人気ブログ記事を書籍化したもので、英語表現も平易でわかりやすい。

本書で述べていること

イギリスの制度 (ISA / SIPP)

今回読んだ"How to Make Money in ISAs and SIPPs"はISAやSIPPsの制度紹介、主に税制面のメリットについてまとめている。

イギリスの現行制度では1会計年度(4/6〜翌4/5)にISAに投資可能なのは20,000ポンドであり、生涯投資額に上限はない。SIPPはもうすこしややこしい。SIPPに投資する際、その分の所得税は免除される (*1) が、この恩恵を受けられる金額には上限がある。たいていは年収額と40,000万ポンドのどちらか低い方が上限額になる。

ISAもSIPPsもいわばプレゼントボックスのようなものであり(著者は "wrappers" =包装紙と表現している)、この中にある金融商品の投資所得(SIPPsの場合は一部のみ (*2) )は課税されない。ただしもちろんプレゼントボックス自体が利益を出すことはなく、あくまでもうけを出すのは金融商品であるから、その分のリスクはとらなければならないし、金融商品売買手数料はかかる。

(*1) 納税者の手元にもどるわけではなく、SIPPへの投資金に上乗せされるという形。たとえばSIPPに2,000ポンド入金すれば、イギリス政府が所得税分の500ポンドを追加入金してくれるので、合計2,500ポンド入金したことになる。

(*2) SIPPは55歳以降に年金として受取可能になるが、非課税なのは総額の25%までで、それ以降は所得扱いとなり税金がかかる。


アメリカの制度 (IRA)

This soft cover book/e-book (book) is written as a quick guide to the common IRS rules governing the establishment, contributions and withdrawals, management and transference to beneficiaries of Individual Retirement Accounts, or IRAs.

このソフトカバーの本 / 電子書籍は、個人退職勘定 (IRA) の設立、寄付、引出、管理、および受益者への譲渡に関する一般的なIRS規則のクイックガイドとして書かれました。

今回読んだ"IRA: A Quick Reference Guide for 2020"はIRAの制度紹介のほか、トランプ政権のもとで2019年12月に改正されたSetting Every Community Up For Retirement Enhancement (SECURE Act) の変更点について解説している。かなり実践的なガイドブックであり、Form W-2(雇用主が発行する年間給与合計表で、米国個人所得税申告書に添付される)など、書類の具体的書き方までカバーされている。

アメリカの現行制度では、1/1〜翌年税申告期日 (通常4/15) に、IRAに投資可能なのは6,000ドルまでであり、生涯投資額に上限はない。ただしどのような収入からIRAに投資できるかは細かい規定がある (*3) 。また、136万ドルまではいわゆる連邦の保障対象になり、IRAを管理する投資会社が倒産しても保障される(これに州独自の保障額を上乗せすることもできる)。

72歳をすぎれば、毎年引き出さなくてはならない最低額が定められている (*4) 。これはIRAを利用して非課税で子孫に残す相続財産をためこませないようにするためらしい。面白いことに、IRAに投資可能な収入から投資していることを立証できれば (*5)、未成年であってもIRAを利用できるという。

(*3) たとえば給料収入はOKだが投資所得や年金などはNG。

(*4) さまざまなタイプのIRAの合計額÷平均余命で求められる額。なんとも合理的。計算のための平均余命表が与えられている。ちなみに2019年版では72歳受給者の平均余命は25.6年で男女区別なし。アメリカ人の平均寿命は2021年度で76.1歳だから、長めに取られてはいるようだ。

https://www.irs.gov/pub/irs-prior/p590b--2019.pdf

(*5) 文中では(おそらく知人友人の)ベビーシッターを引き受けることで得られる収入を例にあげている。しかし家庭内のお手伝いの見返りとしてもらえるお駄賃となればかなりのグレーゾーンで、それが「働きに見合う報酬である」ことを説明できなければならない。わずかな働きの見返りに大金を子どもに与えるようであれば、贈与税回避のためではないかと疑われるであろう。

 

感想いろいろ

なかなか面白いが、いずれも入門書なのでより深い学びが必要。インターネットではさまざまな制度解説が提供されている。たとえばイギリスのISA / SIPPs制度解説サイトはこちら。

Individual Savings Accounts (ISAs): Overview - GOV.UK

Personal pensions: Overview - GOV.UK

なお企業型DCやiDeCoについてよくまとまっている記事があるのでリンクを。

日米の確定拠出年金制度の位置づけ比較 - コンサルタントコラム 791 | マーサージャパン