コーヒータイム -Learning Optimism-

本を読むということは、これまで自分のなかになかったものを取りこみ、育ててゆくこと。多読乱読、英語書や中国語書もときどき。

<英語読書チャレンジ 69-71 / 365> 留学生 (International Student) の現状と就職事情 (1)

英語の本365冊読破にチャレンジ。原則としてページ数は最低50頁程度、ジャンルはなんでもOK、最後まできちんと読み通すのがルール。期限は2027年10月。20,000単語以上(現地大卒程度)の語彙獲得と文章力獲得をめざします。
今回はテーマ読書。かねてより興味がある海外留学事情について関連書を読み、まとめてみた。海外留学を人生経験の一環と考える人、一発逆転カードと考える人、出身国の劣悪な経済状況やいろいろな迫害を逃れるための片道切符と考える人、さまざまだけれど、あえて現地就職をめざすことを想定して、ビザ事情、就職率、就職しやすい分野を調べてみた。

 

アメリカ合衆国

Open Doors Report やboundless.comによれば、毎年100万人近くがアメリカに留学しており、中国人が30万越えと最多で、続いてインド人が30万近く、3位は韓国人で5〜6万程度。つまりアメリカ留学生の7割はアジア出身だ(まあ中国とインドの母数が大きいのもあるだろう)。コロナ禍が直撃した2020年は減少したが、その後回復傾向にある。

IIE Open Doors / International Students

International Students in the U.S.: Trends and Impacts in 2023

卒業後アメリカで就職できる留学生はどれくらいかというと、アメリ国土安全保障省(教育省でも労働省でもなくここが留学生就職を管轄している時点で、アメリカが留学生をどう見なしているのかお察しだが)の統計によればなんと6~7%。NBER (National Bureau of Economic Research, 米全国経済研究所) の統計数字でも学部卒は12%、院卒で23%と決して高くない。

理由は就労許可、ワーキングビザの取りにくさ。

理系卒なら卒業後最大3年間、学生ビザ (F-1) を保持しながらOptiocal Practical Training (OPT) 枠組みでの就労が許可され、この間に正式なワーキングビザ (H-1B) を取らなければならない。毎年発行できるH-1Bビザ数量は上限があり、抽選制。企業側にしたら、留学生はビザスポンサーの手間が増える、H-1Bが当たらなければ3年で帰国する、という面倒を抱えた存在。縁故採用か、よほど優秀でなければ、採用する気にはなれないだろう。永住許可(いわゆるグリーンカード)や米国籍持ちの海外出身者もうようよいるのだからなおさら。実際、日本出身者が、アメリカ学歴を武器に日本国内の外資系企業に就職して高給取りになることは大変よくある。上位25%の優秀層以外はアメリカに残れない。

 

カナダ

カナダの留学事情をよくまとめているブログがこちら。Canadian Bureau of International Education (CBIE, カナダ国際教育協会) の統計によれば、大学院卒留学生の就職率は60%程度とのこと。アメリカよりだいぶましではあるがやはり高くはない。

https://www.kanan.co/blog/how-is-the-job-market-in-canada-for-an-international-ms-student/

アメリカとイギリスに比べれば、カナダは留学生が卒業後就労許可を取得しやすい国といえる。アメリカのOPTにあたるPost-graduation Work Permit (PGWP, 有効期間は8ヶ月〜3年) は、カナダ政府指定校で一定の教育課程 (PGWP-eligible programs) を修了した学生であれば申請でき、就職せずとも保持できる。

PGWPは原則延長・更新不可なので、有効期間内に永住許可申請を行うのが一般的。2022年度に永住許可が出されたカナダ移民のうち8割がPGWP保持者だという統計もある。日本とおなじく専門職であればビザ取得しやすいわけだけれど、カナダ政府のウェブサイトにそれぞれの職業の専門性が一覧形式で掲載されているからよい参考になる。

Find your National Occupation Classification (NOC) - Canada.ca

 

参考文献1

https://www.nber.org/system/files/working_papers/w30431/w30431.pdf

"INTERNATIONAL COLLEGE STUDENTS' IMPACT ON THE US SKILLED LABOR SUPPLY" という報告書をNBER (National Bureau of Economic Research, 米全国経済研究所) が出している。なお報告書は年間3本まで無料でPDFをダウンロードできる。
本報告書は、留学生の就職事情を調査し、政策策定時の参考とする目的で作成されている。Abstract (要約) に報告書のエッセンスがある。

We find that attracting an additional international student to a US university increases the local labor supply by about 0.23 employees for master’s students and about 0.11 for bachelor’s students. These averages conceal an important difference. While non-STEM bachelor’s and master’s students had negligible transition rates into US employment, STEM Master students have had significant transition rates around 0.2, especially after the 2008 reform of Optional Practical Training for STEM graduates.

言いたいことを箇条書きすると、

  • 留学生は大学院卒1人につき0.23人分、学部卒1人につき0.11人の労働力が供給される。すなわち大学院卒留学生の就職率は23%、学部卒11%。
  • STEM (Science, Technology, Engineering, and Mathmatics)以外の学部卒・大学院卒留学生のアメリカにおける就職率は低い。STEMに限れば就職率は大学院卒が25%、学部卒は16%。

一見学部卒の就職率がとても低いが、学部卒からそのまま大学院に進学する学生も一定数いるはずで、進学率はこの調査には含まれていないという説明がある。

いずれにせよ大学院卒留学生で、アメリカ国内に就職するのが4人に1人というのは高くない。本報告書も、人材育成の観点からすれば、アメリカの大学教育を受けた高等人材が国外流出している、と、やんわり注意喚起をしている。とはいえ「だからH1B要件を緩和しましょう」とならないところにアメリカの本音が出ていると思う。留学生に注ぎこんだ教育資源は惜しいが、高等人材には困っていないし、むしろ昨今の国際情勢を考えれば積極的に留学生を受け入れる気にはなれない、というところか。

ちなみに、留学エージェントにさまざまな支援を提供し、良質なエージェントの認可も行うAmerican International Recruitment Council (AIRC) のウェブサイトでは、"For every three international students in the US in 2021/22, one US job was created." とある。こちらは留学生を、学費生活費をアメリカに落として雇用創出もしてくれるお客様扱い。

The Impact of International Students on the US Economy in 2023 — AIRC

 

参考文献2

移民コンサルタントである著者による、カナダ永住許可の一覧とそれぞれについての解説本。

たいていの国家とおなじく、カナダには①一時滞在許可(観光ビザ、学生ビザ、就労ビザなど)、②永住許可(経済移民、家族移民、難民など)、③市民権 (いわゆるカナダ国籍保持者)がある。カナダではさらに連邦単位での永住許可プログラムと州単位の永住許可プログラムに分かれる。

カナダがほしい移民はひとことでいうと高度な職業遂行能力、投資、会社設立などを通してカナダに経済的メリット(雇用創出を含む)を与えてくれ、かつ、独立した生計能力をもつ(医療や生活保護などの社会福祉のお世話にならない)人材。職業はNational Occupational Classification (NOC) systemを通してランク付けされ、さらに外国人材を雇うことでカナダ市民が不利益を被らないかどうか審査する Labor Market Impact Assessment (LMIA) をクリアしなければならない。ただ、学生であれば、post-graduation work permit (PGWP) を取得後、永住許可申請を行うルートがある。

 

移民コンサルタントである著者による、初心者向けの包括的なカナダ移民手引き。前著と内容が被りすぎることのないよう、permanent residence programs (永住許可取得プログラム) の記述は控えめであることには要注意。ちなみにカナダのビザは以下のように分類される。

  1. Temporary Residence

  • Visitors Class
  • Students Class
  • Workers Class
  • Temporary Resident Permit Class

  2. Permanent Residence

  • Economic Class
  • Family Class (Sponsorships)
  • Refugee and H&C Class

  3. Citizenship

  • Citizenship by naturalization
  • Citizenship by birth
  • Citizenship by blood line
  • Citizenship by adoption

 

移民コンサルタントである著者による、初心者向けの包括的なカナダ移民手引きの留学生版。

海外留学にあたり、教育水準、学費、生活費、奨学金などの経済的支援制度の充実さ、卒業後就職、就労ビザが下りやすいかどうか、など、さまざまな面を考えあわせて、どの国家のどの大学、どの専攻に出願するかを決める。カナダは留学先とひてはかなり人気がある。QSの世界大学ランキングにはカナダの大学が20校以上あるし、学費はアメリカやイギリスに比べれば低く、生活費 (Numbeo Cost of Living) も同様。アメリカやイギリスは就労ビザ取得が最難関だが、カナダはPost-Graduation Work Permit (PGWP)制度(ただし指定校の指定教育コースを修了していることが条件)を利用できれば比較的容易。

カナダの場合、留学生を受け入れられるのはDesignated Learning Institution (DLI、カナダ移民局認定校に発行される学校独自の番号。学生ビザ発給に必須。Designated learning institutions list - Canada.ca) をもつ教育機関のみ、学生ビザのほか入国時に発行される "Study Permit" という公式書類も必要など、留学生受け入れのさまざまな制度が整う。

カナダの大学を検索できるサイトはこちら。

Search college and university programs in Canada

卒業後就労についての案内はこちら。

Work in Canada after you graduate: Who can apply - Canada.ca