コーヒータイム -Learning Optimism-

本を読むということは、これまで自分のなかになかったものを取りこみ、育ててゆくこと。多読乱読、英語書や中国語書もときどき。

日常の中にひそむ非日常〜宮部みゆき『ぼんぼん彩句』

宮部みゆきさんは『模倣犯』を読んで以来のファン。ご本人は「よく知らないものは書けない」と話しているらしいけれど、芸能人とか政治家とかはそれほど書かない一方、ふつうの人々のふつうの日常にひそむものを抉り出すのが戦慄するほど上手い。以前読んだ〈杉村三郎シリーズ〉もまさにこれ。

日常生活にまぎれた悪夢がむき出しにされる瞬間〜宮部みゆき『希望荘』 - コーヒータイム -Learning Optimism-

日常生活の中に立ちこめる黒雲〜宮部みゆき『昨日がなければ明日もない』 - コーヒータイム -Learning Optimism-

この『ぼんぼん彩句』には面白い仕掛けがあり、宮部みゆきさんの俳句仲間がつくった俳句をお題に短編小説を書く、というやり方で十二の短編小説を仕立てている。

私のお気に入りの句は〈月隠るついさっきまで人だった〉とそれに添えられている短編小説。じわじわ怖くなる系の俳句に、これまたじんわりと月を隠すように暗雲立ち込めてくる小説。誰でも一つ二つ聞いたことがあるような、けれど身内や自分自身に起きると鳥肌が立つような。そんな極上の読書体験は秋の夜長にふさわしい。(怖がりの読者は日の出ているうちに読みましょう。はい、私のことです)