コーヒータイム -Learning Optimism-

本を読むということは、これまで自分のなかになかったものを取りこみ、育ててゆくこと。多読乱読、英語書や中国語書もときどき。

【おすすめ】みずからの足で立つために~読書猿《独学大全》

インターネットの知の巨人、読書猿さんが書いた3冊の本《独学大全》《問題解決大全》《アイデア大全》を一気読み。このうち《アイデア大全》は一度読んだことがあるが、この機会に再読。

【おすすめ】『アイデア大全』(読書猿著)を読んだ - コーヒータイム -Learning Optimism-

いずれの本もある目的を果たすのに使える技法集、いわゆる「お道具箱」のようなものだが、なぜこの道具が必要になるのか、どういうときに効果があるのか、意図的に読者に考えさせながら、それぞれの技法の紹介をしているため、とても読みやすい。(これらの技法を収集するためにいったいどれだけ本を読んだのか、考えてみると背筋が寒くなる)

 

なぜこの本を読むことにしたか

なぜわたしはこの本を読むために時間を使うのか。

①世界の見方を根底からひっくり返す書物、

②世界の見方の解像度をあげる書物、

③好きだから読む書物

この本は①。【なぜ学ぶのか】について、これまで読んできた中で《独学大全》が一番納得出来る、もやもやしていたものを言葉に具現化した理由を書いていた。

なぜ学ぶのか。それはヒトが「周囲の環境に働きかけ、自分に都合がよいように環境を改変」する(これをニッチ構築と呼ぶ)ことで文明社会を築き上げてきたからだ。ヒトのニッチ構築が物理的な環境改変だけではなく、認知的なものーー宗教、法律、社会制度などーーにも及んだからだ。認知的ニッチ構築は、ヒトが先天的にもつものではなく、後天的に学ばなければならない。そのような社会に生きることを選んだからだ。

だからこそヒトは学ばなければならない。「人間」社会に生きるならば。著者はこう表現している。

我々は、直感と感情が優先する脳を持っていながら、生得的な認知機能だけでは適応しがたい世界に、言い換えれば理性と知識なしには社会と文明を維持できない世界に生きている。

なぜ学ぶのか。

この問いについてのひとつの答えを腹落ちさせて初めて、学ぶことは自分事になる。

一般的にいえば、学ぶのは人間社会でよりうまく生きるためだろう。

私個人にかぎれば、学ぶのはなぜ自分自身が生きづらいのか知るためだ。生きづらさをもたらしている考え方や価値観を見つけるためだ。それらを切り離すなり変えるなりすることで生きやすくなるためだ。なにより生きづらさを自分以外の誰のせいにもせず、生きやすくなるための不断の努力をすることで、自分を好きになるためだ。

なぜ生きづらいか、私個人の力だけで発見するのはむずかしいけれど、大勢の先人達がこのテーマについて悩み、考え、研究して、さまざまな仮説として提示し、文献にして残してくれている。私はそれらの文献にあたることで「自身の認識能力を高める」ことができる(できた)。なぜ生きづらいと感じるのか、どういう場面でそう感じるのか、少しでもマシな状況にするためにはどうすればいいか、考えて、実行してみて、失敗すれば別のやり方を試すことができる(少しずつできるようになった)。

著者がインタビューで、イソクラテス以来の定義を引いて「教養とは、運命として与えられた生まれ育ちから自分を解放するもの」と述べていたことがあるが、私の動機付けはまさにここだ。ちなみに仕事にかかわる専門分野を学ぶにあたっては、正しいことを知っている、遂行しているという気持ちよさを味わうことも動機付けのひとつである。

 

本書の位置付け

なぜこの本を読むのか、延々書いてしまったが、本書は帯にあるように「自分を変えたいすべての人へ」向けた独学のための指南書。

勉強法についてのビジネス書はあまたあるけれど、ほとんどがひとつかせいぜい数個の技法のみを扱っている中で、数十もの技法を紹介し、その意義や長所短所をとことん紹介した本は、私が知る限り本書のみ。〇〇勉強法」というタイトルのビジネス本を数十冊読むよりも、これ一冊読んだ方がはるかに役立つ。

 

本書で述べていること

なぜ学ぶのかについての著者の考えを述べたあと、独学のための数十もの技法を紹介し、その意義や長所短所をとことん紹介している。また、最後に国語・数学・英語それぞれについて、独学の具体例を小説風に述べている。

ちなみに本書出版後に『英語のハノン』という本が出たが、著者いわく「これがもっと早く出版されていれば英語の独学の章を書き直していた」そうで、《独学大全》の内容自体はこれで完成形というわけではないと考えているようだ。

 

感想いろいろ

なぜ学ぶかについて、私は自分なりの答えをみつけることができた。では学ぶにあたってどうするべきか。

本書の「お道具箱」を参照して、独学のために私がすることを箇条書きにする。読むべきものを調べる方法はここには入れていないけれど、技法21「文献たぐりよせ」技法など、《独学大全》で数多く紹介されている。私がキャリアをおく業界はとりあえず教科書が(一部分野について)成立している。投資分野に教科書はないけれど、よく読まれている基本書籍はあるし、ベースとなる経済学には教科書がある。読むべきものを見つけるのはそれほど難しいことではないはず。

  • キャリア上の夢をかなえるためにたどるキャリアパス、学ぶこと、あたるべき参考文献を、毎回就寝前に25分間集中して考え、調べる。(技法8「ポモドーロ・テクニック」/技法16「カルテ・ク・セ・ジュ」/技法30「要素マトリクス」)
  • 投資について学ぶために、NISAやETFなどの投資商品及び税制度について、毎日昼食後に25分間集中して調べる。(同上)
  • 毎日午前中に10個、午後に10個、英単語を暗記する。1週間で140語、1年で約7000語目標。(技法4「1/100プランニング」/技法47「記憶法マッチング」)
  • 24時間をどのような行動に配分したか毎日記録する。私が愛用しているのは"timetrack"というスマホアプリ。いつどれだけの時間を独学にあてたか一目瞭然。(技法6「行動記録表」)

 

最後にグサッときた言葉をメモしておく。まずは技法42「段落要約」からの抜き書き。

やすやすと読むことができる書物は慰安にはなるが、そこから得られるものは自分が既に知っていたことの再確認と自己満足のみである。これに対して、自分がこれまでしたこともない思考や生き方に誘うのは、簡単には読むことができない書物である。

次に技法49「プレマップ&ポストマップ」からの抜き書き。とても大切だけれど、私がしばしば忘れがちになってしまうこと。

我々の長期記憶は、互いに関連付けられ結び付けあうネットワーク状に構成されている。新しい何かを学ぶことは、そのネットワークに新たな要素を組み込むこと、そうすることで既存のネットワークをつなぎ替え、再編成することである。

新しいことを一つ学べば、それと関連した既存の知識も変化する。

 

あわせて読みたい

《アイデア大全》《問題解決大全》とあわせて読むことを強くおすすめ。