コーヒータイム -Learning Optimism-

本を読むということは、これまで自分のなかになかったものを取りこみ、育ててゆくこと。多読乱読、英語書や中国語書もときどき。

メタバースに投資するには〜M. Bancroft “Metaverse Investing”

 

なぜこの本を読むことにしたか

なぜわたしはこの本を読むために時間を使うのか。

①世界の見方を根底からひっくり返す書物、

②世界の見方の解像度をあげる書物、

③好きだから読む書物

この本は②。最近トレンドになっている「メタバース」を投資対象という切り口から解説した本。

 

本書の位置付け

メタバース、及び関連技術を投資対象としてとらえたときに、その魅力や可能性、将来展望について、著者の考えをまとめた初心者投資指南本。技術的側面にはあまり深入りしていない。英語としてはかなり読みやすい。

 

本書で述べていること

著者はVRVirtual Reality, 仮想現実)を視覚だけでなく五感全て(すくなくとも視覚、聴覚、触覚)で体験、相互作用することができるものだと考える。メタバースはCGR(Computer Generated Reality、コンピュータにより作成された現実。いわゆるコンピュータグラフィックに近い)やAR(Augmented Reality、拡張現実。ポケモンGOのように現実世界にデジタル情報を入れこむこと)のどれかひとつではなく、それらを組み合わせたような存在になるだろう。メタバースの(検索エンジンにおけるGoogleやOSにおけるMicrosoft Officeのような)【標準】を打ち立てるために、IT企業の巨人たちが熾烈な競争を繰り広げている。

技術開発は主に①ハードウェア(VR用ヘッドセットなど)、②プラットフォーム、③サービス(VR、AR、人工知能ブロックチェーンなどの機密情報保持したうえでの取引技術、5Gなどの大容量高速通信技術)の三方面からなされる。2022年始時点でメタバースに参入している7つの主要企業はFacebook(現Meta)、Microsoft、Unity Software (*1) 、Roblox (*2)Amazon(著者はAmazonはやや出遅れていると評価している)、Autodesk (*3)Nvidia (*4) 。もっとも進んでいるのはオンラインゲーム、オンラインビジネス、教育・職業訓練の分野だといえる。メタバースへの投資は参入企業の株式を購入することのほかに、メタバースのプラットフォームの上でゲームを開発して課金する、バーチャルショップを開く、変わったところでは仮想現実世界での通貨取引や土地取引なども考えられるだろう。メタバース上での取引には、NFT(Non-Fungible Token。偽造不可な鑑定書・所有証明書付きのデジタルデータのこと)や暗号通貨をはじめとするブロックチェーン技術が使用されるであろう。

(*1) 3Dゲーム開発のメインエンジンの1つを所有。世界のトップゲーム100のうち94はUnity Softwareのゲームエンジンを利用。

(*2) ユーザーがゲームを作成・共有出来るプラットフォームを提供。現在遊べるゲームは5000万以上。1日あたりのアクティブユーザー数は数千万人。多くのプレイヤーはZ世代の若者たち。

(*3) 建築設計及び施工分野での製図、3Dモデル作製に使用されるAutoCADが主力製品。エンターテイメント分野にも進出。

(*4) コンピュータグラフィックスチップ開発・製造に強みをもつ半導体メーカー。

 

感想いろいろ

『メタ』バース=複数のユニバース(宇宙)を統括的に見る、ということがどういうことかについては各論あるようだけれど、本書ではそのような定義の問題には深入りせず(というかメタバースを仮想現実と拡張現実の延長線上にあるものととらえ)、現時点でメタバースに役立ちそうなハードウェア、プラットフォーム、サービスを研究開発している企業の紹介にとどまる。

無難ではあるけれど、そもそもメタバースがどういうもので『あるべきか』について深く掘り下げていないため、その『あるべき姿』を実現するために開発されるであろう破壊的イノベーション交通機関における大衆向け自動車、音楽鑑賞におけるウォークマン、写真撮影におけるデジカメ、お買いものにおけるオンラインショッピングのように、ゲームルールを根本的に変えて既存業界を破壊してしまう技術)をとらえるには、このアプローチでは弱い。そちらは別の参考書でカバーした方が良さそう。

「21世紀の技術、20世紀の法制度、19世紀の社会」などと揶揄されるのを聞いたことがあるけれど、最新技術はいつでも時代遅れの法制度、新しいものが好きだけれど気まぐれでなかなか変わりたがらない消費者や彼らがつくる社会を相手にしなければならない。著者はFacebook(現Meta)と独占禁止法及び米国連邦通商委員会(Federal Trade Commission)のたたかいをはじめ、知的財産権、個人情報保護、有害表現規制などがメタバースに与える影響は小さくないとしている。投資にあたっては法改正にも注目する必要があるだろう。逆にいうと、そういうものがゆるい国家は比較的簡単にメタバースを立ち上げることができるであろう。

 

あわせて読みたい

以前メタバースを技術面から解説した本『メタバース 完全初心者への徹底解説』を読んだ。そのときの読書感想を参考までに。

仮想現実をめぐる競争〜白辺陽『メタバース 完全初心者への徹底解説』 - コーヒータイム -Learning Optimism-

GAFAの決算書』は、メタバースに力を入れると公言しているFacebook(現Meta)をはじめとするITの巨人たちの決算書とビジネスモデルを解説してくれる。

本書ではさまざまなクイズが出題され、読者がみずから考えることを手助けしてくれるが、財務比率を手掛かりに業界と企業を推測してみるクイズは、決算書のどこに着目するべきかについてとても優れたヒントとなるので、ぜひ挑戦してみてほしい。(私は恥ずかしながら全然解けなかった)

MBAより簡単で英語より大切な決算を読む習慣』ではインターネット・ソフトウェア業界のビジネスモデルと決算を読むコツがまとめられている。ビジネスモデルのそれぞれの数値を上昇させるため、さまざまな切り口から考えられる戦略が、そのまま売上拡大戦略となる。

ECビジネスモデルは〈ネット売上 = 取扱高 (すなわち購買単価×購買頻度) × テイクレート (Take Rate) 〉。

FinTechビジネスは複数考えられるけれど、ストックが重要指標になる〈売上収益=預金残高 (または貸付残高) × 金利〉、フローが重要指標になる〈売上収益=取扱高×手数料パーセント〉、ソフトウェア販売で稼ぐビジネスモデル。

広告ビジネスモデルは〈売上 = ユーザー数 × ユーザーあたりの売上(ARPU, Average Revenue Per User)〉。Netflixのような動画・音楽配信企業や、クックパッドのような有料会員限定サービスを展開する企業など、個人課金サービスビジネスモデルにもこの公式を使えるけれど、売上とARPUをそれぞれ、広告由来(すなわち無料会員と有料会員両方から得られるもの)、個人課金由来(すなわち有料会員のみから得られるもの)に分けて考える必要がある。

同書の「決算が上手に読めるようになる10箇条」を引用しておく。

  1. 他人の家庭の「家計簿」を覗くつもりで読む
  2. 必要なのは四則演算のみ
  3. 決算短信ではなく、決算説明会資料から読む
  4. 企業の「将来」を予測しようとする前に「過去」を正確に理解する
  5. 各ビジネスの構造を数式で理解する
  6. 各ビジネスの主要な数字を暗記する
  7. 徹底的な因数分解で「ユニットエコノミクス」を計算する
  8. 成長率(対前年比 / YoY)を必ず確認する
  9. 1社だけではなく、類似企業の決算も分析・比較する
  10. 類似企業間の違いを説明できるようになる