コーヒータイム -Learning Optimism-

本を読むということは、これまで自分のなかになかったものを取りこみ、育ててゆくこと。多読乱読、英語書や中国語書もときどき。

流れゆく時からふと汲みあげた小説〜川端康成《山の音》

山の音 (角川文庫) 作者:川端 康成 KADOKAWA Amazon 川端康成は《雪国》《伊豆の踊り子》が有名だけれど、この《山の音》については知らなかった。しかし、海外での評価が高く、ノルウェー・ブック・クラブ発表の「史上最高の文学100」に選出されたことを知…

真の読者にはとどかない寓話〜ジョージ・オーウェル《動物牧場》

動物農場 (角川文庫) 作者:ジョージ・オーウェル,高畠 文夫 KADOKAWA Amazon 中篇《動物農場》 本作は《1984》の著者ジョージ・オーウェルのもうひとつの代表作。《1984》の読書感想はこちら。 身震いするほどの不快感〜ジョージ・オーウェル《1984》 - コー…

身震いするほどの不快感〜ジョージ・オーウェル《1984》

1984 (角川文庫) 作者:ジョージ・オーウェル,田内 志文 KADOKAWA Amazon この小説はどこまで想像力による創作物で、どこからが歴史上の事実をなぞらえているのだろう? たぶん世界でもっとも有名なディストピア小説である《1984》を読みつづけてしばらくたっ…

仮想現実をめぐる競争〜白辺陽『メタバース 完全初心者への徹底解説』

メタバース 完全初心者への徹底解説: 2021年 仮想世界を巡る百花繚乱時代 作者:白辺 陽 Amazon なぜこの本を読むことにしたか なぜわたしはこの本を読むために時間を使うのか。 ①世界の見方を根底からひっくり返す書物、 ②世界の見方の解像度をあげる書物、 …

古代中国にタイムスリップした主人公は現地でサバイバルする〜柿沼陽平『古代中国の24時間』

美味しいものはとっておいて後で食べる主義である。この本は読む前から絶対面白いとわかっていたから、ゆっくり読む時間ができるまで楽しみにとっておいた。 古代中国の24時間 秦漢時代の衣食住から性愛まで (中公新書) 作者:柿沼陽平 中央公論新社 Amazon …

食談とその深遠なる意図〜開高健『最後の晩餐』

最後の晩餐 (文春文庫) 作者:開高 健 文藝春秋 Amazon 開高健といえば、朝日新聞社臨時特派員としてベトナム戦争を取材したときの凄絶な体験に基づくノンフィクションと小説が有名だけれど、私はそのうち読みたいと思いつつ、残念ながらまだ読んだことがない…

護ることの重み〜中山七里『護られなかった者たちへ』

……言葉もない。 読み始めれば止まらず、ほぼ徹夜で読み終えた。 私はふだんあまりミステリーを読まないのだが、これは刺さった。葉真中顕『ロスト・ケア』『絶叫』と同系統の社会派ミステリー小説。テーマは生活保護受給者たちの声なき叫び。 あらすじを簡単…

経済理論と実体経済の相違〜大村大次郎『教養として知っておきたい33の経済理論』

なぜこの本を読むことにしたか トマ・ピケティ《21世紀の資本》の解説書で、《21世紀の資本》は膨大なデータの分析によりノーベル経済学賞を受賞した経済学者の理論をひっくり返した点で画期的であったとあるのを読んだ。これがきっかけでいま参照されている…

トマ・ピケティを図表から読もう〜髙橋洋一『たった21枚の図で「21世紀の資本」は読める!図解ピケティ入門』

なぜこの本を読むことにしたか トマ・ピケティの《21世紀の資本》を読みたいとずっと思っていたが、経済学を学んだわけでもない私が、分厚い経済専門書をいきなり読み始めれば挫折しかねないため、まずざっくり概要をつかんでから本丸にとりかかりたいと思っ…

ETF(上場投資信託)について学ぶ〜石森久雄『ETF(上場投資信託)の授業』

なぜこの本を読むことにしたか 投資商品のうちとくに興味をもっているETF(Exchange Traded Fund/証券取引所で売買される投資信託)についてもっと知るために読んだ。 本書の位置付け ETFについての基礎知識をまとめた初心者向け投資本。本文中に記載の内容…

いますぐ投資を始めよう〜高橋ダン『世界のお金持ちが実践する お金の増やし方』

なぜこの本を読むことにしたか 「世界ニュース」「経済」「投資」「お金」をメインテーマとする人気YouTuber・高橋ダンさんの著書。私は投資商品のうちとくにETFに興味をもっており、いろいろ見ているうちにたまたま本書をみつけた。 本書の位置付け お金を…

投資家必読の(《証券分析》よりはとっつきやすい)名著〜ベンジャミン・グレアム《賢明なる投資家》

賢明なる投資家 ウィザード・ブックシリーズ10 パンローリング株式会社 Amazon なぜこの本を読むことにしたか なぜわたしはこの本を読むために時間を使うのか。 ①世界の見方を根底からひっくり返す書物、 ②世界の見方の解像度をあげる書物、 ③好きだから読む…

【おすすめ】バリュー投資家の必読書〜ベンジャミン・グレアム《証券分析》

証券分析 作者:ベンジャミン・グレアム,デビッド・L・ドッド パンローリング株式会社 Amazon なぜこの本を読むことにしたか なぜわたしはこの本を読むために時間を使うのか。 ①世界の見方を根底からひっくり返す書物、 ②世界の見方の解像度をあげる書物、 ③…

【おすすめ】これから経済独立をめざしたい人のための投資入門書〜バートン・マルキール《ウォール街のランダム・ウォーカー》

ウォール街のランダム・ウォーカー<原著第12版> 株式投資の不滅の真理 (日本経済新聞出版) 作者:バートン・マルキール 日経BP Amazon なぜこの本を読むことにしたか なぜわたしはこの本を読むために時間を使うのか。 ①世界の見方を根底からひっくり返す書物…

少子高齢化社会を生き抜くために、投資ノウハウについて学ぶ〜広瀬隆雄『Market Hack流 世界一わかりやすい米国式投資の技法』

MarketHack流 世界一わかりやすい米国式投資の技法 作者:広瀬 隆雄 東洋経済新報社 Amazon なぜこの本を読むことにしたか なぜわたしはこの本を読むために時間を使うのか。 ①世界の見方を根底からひっくり返す書物、 ②世界の見方の解像度をあげる…

〈半沢直樹シリーズ〉がもっと面白くなるかも〜H.M. Schilit他 “Financial Shenanigans, Fourth Edition”

Ecclesiastes 1:9 - quid est quod fuit ipsum quod futurum est quid est quod factum est ipsum quod fiendum est What has been will be again, what has been done, will be done again; there is nothing new under the sun. (Ecclesiastes 1:9)先にあ…

トルコの建前と本音を解体してみせたすごい本〜小島剛一『トルコのもう一つの顔』

トルコのもう一つの顔 (中公新書) 作者:小島剛一 中央公論新社 Amazon なぜこの本を読むことにしたか F爺こと小島剛一さんのことを知ったのは、フランスのサッカー選手の侮蔑的発言をめぐってTwitter上でひろゆき氏と舌戦を繰り広げているのを読んだのがきっ…

21世紀の皇室外交〜君塚直隆『カラー版 王室外交物語〜紀元前14世紀から現代まで〜』

カラー版 王室外交物語~紀元前14世紀から現代まで~ (光文社新書) 作者:君塚 直隆 光文社 Amazon なぜこの本を読むことにしたか イギリス王室のハリー王子とメーガン妃の王室離脱騒動といい、日本皇室の眞子さまの結婚騒動といい、21世紀に入ってから、君主…

【おすすめ】リアルな英国医療現場をさらけ出す傑作ノンフィクション〜A. Key “This is Going to Hurt”

This is Going to Hurt: Secret Diaries of a Junior Doctor (English Edition) 作者:Kay, Adam Picador Amazon すこし痛みますよ 作者:アダム・ケイ,佐藤由樹子 羊土社 Amazon なぜこの本を読むことにしたか なぜわたしはこの本を読むために時間を使うのか…

【おすすめ】責任主体たり、問題解決者たれ〜読書猿《問題解決大全》

問題解決大全 作者:読書猿 フォレスト出版 Amazon なぜこの本を読むことにしたか 《独学大全》の項で、学ぶのはなぜ自分自身が生きづらいのか知るためだと書いたが、まさにそれにうってつけのお道具箱が《問題解決大全》。これもそこそこ分厚い鈍器本だが、…

【おすすめ】みずからの足で立つために~読書猿《独学大全》

インターネットの知の巨人、読書猿さんが書いた3冊の本《独学大全》《問題解決大全》《アイデア大全》を一気読み。このうち《アイデア大全》は一度読んだことがあるが、この機会に再読。 【おすすめ】『アイデア大全』(読書猿著)を読んだ - コーヒータイム …

株式投資を始めるならまず財務諸表を知れ〜國貞克則『決算書がスラスラわかる財務3表一体理解法』

決算書がスラスラわかる財務3表一体理解法 (朝日新書) 作者:國貞 克則 朝日新聞出版 Amazon なぜこの本を読むことにしたか なぜわたしはこの本を読むために時間を使うのか。 ①世界の見方を根底からひっくり返す書物、 ②世界の見方の解像度をあげる書物、 ③好…

唖然とするしかない、歴史的必然〜阿部智里『追憶の烏』

……なんだこれ。 第二章「その夜」を読み始めてすぐに呆然とした。 読み進むにつれて、なぜかどんどん物語に共感出来なくなっていった。わたしはいつも小説の主人公や主要登場人物に感情移入して読み進めるのに、それがどうしようもなく難しくなり、知らずに…

20世紀中国の「勝ち組」と「負け組」〜余華『兄弟』

書店で余華(ユイ・ホア)の代表作のひとつ『兄弟』が復刊されているのを見かけた。我が家の本棚にもかなり前に買った『兄弟』があるけれど、積読状態だったため、この機に読んでみた。 ノーベル文学賞受賞作家である莫言(モー・イエン/ばく・げん)が心理…

リアルな出来事に芸術的視点をまぶした印象派絵画のような小説〜莫言『赤い高粱』『続・赤い高粱』

莫言(ばく・げん/モー・イエン)は2012年にノーベル文学賞を受賞した中国人作家。幼少期は1500万~4000万の餓死者が出たとされる大躍進期(*1)にあたり、その後文化大革命(*2) を経験する。この経験が彼の創作の原動力となっている。ノーベル文学賞を受賞し…

【おすすめ】ワクチン開発競争と政治の壮大な駆け引き〜メレディス・ワットマン『ワクチン・レース』

ワクチン・レース 作者:メレディス・ワッドマン,佐藤由樹子 羊土社 Amazon 本書は1964年から65年にかけてアメリカで起こった風疹の大流行と、その後に続く風疹ワクチン開発についてのノンフィクション。 風疹は感染症の一種で、発熱、発疹、リンパ節の腫れな…

【おすすめ】2008年金融危機、なぜリーマンは救済されなかったか〜A.S.Sorkin “ Too Big to Fail”

なぜわたしはこの本を読むために時間を使うのか。 ①世界の見方を根底からひっくり返す書物、 ②世界の見方の解像度をあげる書物、 ③好きだから読む書物 この本は②。米ニューヨーク・タイムズで金融と企業合併を専門とする敏腕記者が、約500時間のインタビュー…

苦労や工夫を重ねて生きていたあの頃〜暮しの手帖社『戦争中の暮しの記録』

戦争中の暮しの記録―保存版 暮しの手帖社 Amazon 小学6年生だったとき、学級文庫になぜかこの本があった。戦争など露ほども知らない世代だが、好奇心にかられてよくめくっていた。記憶にあるのは「主食代わりに配給されたコッペパン」「配給の塩が足りない…

新本格ミステリーにようこそ〜知念実希人『仮面病棟』『時限病棟』『硝子の塔の殺人』

コロナ禍のさなか、Twitterで積極的に情報発信したり、ワクチン接種出来るところを紹介したりと、精力的に活動している知念実希人先生を知った。小学館が出した、コロナに関する不適切な雑誌記事をきっかけに小説作品を引き上げるという、医師としての矜持、…

子どもを国際人に育てるために〜谷本真由美『みにろま君とサバイバル 世界の子どもと教育の実態を日本人は何も知らない』

みにろま君とサバイバル 世界の子どもと教育の実態を日本人は何も知らない (集英社学芸単行本) 作者:谷本真由美 集英社 Amazon イギリス在住、IT業界で働く谷本真由美さん(めいろま@May_Roma)のツイートはいつも興味深く読んでいる。基本的にビジネス環境…